1.


真っ黒な服が血を吸って重くなっている。
油断した、と悔やむ。数人相手ならまだしも、さすがに2、30人相手は逃げるのもきつい。
路地裏に逃げ込んだが行き止まり。本当、ついてない。
ジリジリと迫って来るチンピラたちに、臨也は新しいナイフを構える。
「そんなボロボロな状態でまだやろうってのか、オリハライザヤさんよう」
チンピラたちに笑い声が広がった。
「ま、君達は所詮群がってないと人を殺すこともできない連中だろうけど、俺は一人で君達の半分くらいは殺せると思うよ」
試してみるかい?
そう言って不敵に嗤ってみせた。
勿論ハッタリなんかじゃない。伊達にあの池袋最強と何年もやりあってないし、自信はあった。
…―身体がもてば、だけどね。
今こうやって話してる間にも血はどくどく流れ出てるのだ。
時間が経てば経つほど、意識が朦朧としてくる。
…どうせ死ぬかも知れないなら、何人か道連れにしてやるよ。
臨也の気迫に何人かが身じろぎした。
そこへ、
「うわああぁぁっ」
まるでマネキンのようにチンピラの一人が臨也の足元に降ってきた。
どさっと地面に叩き付けられる人間の体。
「…あ…」
「な、なんだ?」
チンピラたちが振り返る。
「来ちゃったんだ…ホント、俺を見つけるの上手いなぁ…」
臨也は腹を押さえて笑い出した。
その間にも、次々と気を失った男たちが飛んで来る。
最後の一人が殴り倒されたのを見ながら、臨也は座り込んだ。
血が止まらない。
「…こんな傷、君なら直ぐ塞がるんだろうね」

――・・・シズちゃん。

「不様だな」
金髪にバーテン服の男は両手をポケットに突っ込んだまま、臨也を冷たい目で見下ろした。
「あは、しくじっちゃった」
はあはあと呼吸を乱しながら、臨也は笑う。もう手足の感覚さえもない。
静雄は無言で臨也を見下ろしたまま、煙草を取り出して火を付けた。
「人が死にかけてるのに呑気に煙草?ホント、シズちゃんは薄情だよね」
「うるせえ黙れ」
「シズちゃんからしたら大嫌いな俺が死んで嬉しいんだろうけど――」
「黙れっつってんだろうが!」
低い声で怒鳴られて臨也は口を噤む。
決して短くはない付き合いから、彼が本気でキレてるのが分かった。
静雄は臨也の傍にしゃがみ込むと、両脇に手を入れてそのまま体を抱え上げた。
「シズちゃん…?」
バーテンの白いシャツが血に染まっていく。
静雄は全く気にも留めず、吸っていた煙草を投げ捨てると踵で揉み消した。
臨也を肩に担ぎ上げ、そのままゆっくりと歩き出す。
「シズちゃ…」
「うるせえ」
間髪入れずに会話を止められた。
眉間には深い皺。こめかみには青い筋。かなり機嫌が悪そうだ。
「助けてくれるのは良いんだけど…、」
こんなゆっくりじゃ、出血多量で死…ぬ…よ…
臨也は意識を手放した。
×