会いたかった




変な時間に目覚めてしまった。
腕を伸ばして時計を見れば、まだ3時前だ。起きるには早過ぎる。再び体をベッドに沈めるも、眠りは訪れない。臨也は仕方がなく体を起こした。
窓から外を見れば真っ暗だ。それでも新宿の夜景がちらほら見え、それは美しい。偽物の星空みたいなものだ。

不意に会いたくなった。

馬鹿馬鹿しい。女のようだと思ったが、体は勝手に衣服を着替え始める。
マンションを出て、タクシーを拾う。この時間はもう終電はとっくにない。池袋まで、と場所を告げて、臨也は後は外の流れる風景を見ていた。
目的の場所に着くと、臨也はゆっくりとアパートの階段を上がった。かん、かん、かん、と足音はいやに響く。
部屋の前まで来て、さてどうするかと悩んだ。起こしたら怒るだろう。こんな時間だ。勝手に入っても怒るだろう。鍵はないし。
試しにノブを回してみると、それは簡単に開いた。どうやら最初から施錠してなかったらしい。
「お邪魔します」
と呟いて、臨也は中に入る。部屋の中は静雄の匂いがした。
部屋の一番奥のベッドで、静雄はすやすやと眠っている。丸くなって。
臨也はその金の髪を撫で、ぎゅっと握られた手を取った。手は暖かい。
指先に口づけてやると僅かに身じろぎをする。くすぐったいのかも知れない。まるで子供みたいだ。
臨也は暫く静雄の寝顔を眺め、やがて手を離すと踵を返した。来た時と同じく、ゆっくりと部屋を出る。かちゃ、と言うノブの音がいやに響いた気がした。
アパートの階段を下りようとしたところで、声をかけられた。
「臨也」
振り返ると、静雄がまだ寝ぼけた様子で立っていた。どうやら目が覚めてしまったらしい。
「起こした?」
「こんな時間に…どうした」
言葉は少しだけ呂律がまだ回っていない。
「シズちゃんに会いたくなって」
「こんな時間に?」
「時間とか、関係あるの?」
逆に聞かれて、静雄は黙り込む。段々と頭が覚醒してきたらしい。
「来たならちゃんと会っていけよ」
「起こしちゃ悪いかなと」
「もう起こした」
「…確かに」
ごめんね、と言って臨也は笑う。静雄はそんな臨也に手を伸ばした。
「来いよ。会いに来たんだろう」
「一緒にいてもいいのかな」
臨也はその手を掴み、静雄へと近づく。ぎゅっと手が握りしめられた。
「キスするなら、指先以外にしてくれ」
静雄はそう言って、臨也の手を引いて部屋に入る。臨也はそれに笑った。
薄暗い部屋に入り、背後に扉が閉まる音を聞きながら、臨也は静雄を背中から抱きしめる。
「会いたかった」
そう口にすると、静雄の体が微かに震えた。
今夜はきっと、このまま眠らないだろう。


101022 04:01
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