好き




思いの深さなんて誰にも分からない。
自分自身でさえも、分かっているか怪しい人間はたくさんいるだろう。
けれど、臨也は今その深さが、相手に伝わればいいのになと思っていた。
「好きだよ」
言葉と言うものは何て軽いんだろう。口にした途端に、その思いは酷く薄っぺらに感じる。
臨也は言葉でしか伝える術を知らなかった。思いは口に出さなければ、相手には伝わらない。
静雄は臨也の言葉に、眉を顰めただけだった。僅かに頬が赤いけど、信じているかどうか怪しい。
何故伝わらないのだろう。臨也は悩む。言葉は便利なのに不便だ。
例えばこの心臓を取り出して、目の前に捧げたら信じてくれるのだろうか。駄目だ。それは心臓であって心ではない。
黙り込んだ臨也に、静雄が不思議そうに覗き込んで来る。
「臨也」
「何かな」
「いつもお喋りなお前が黙り込むの気持ち悪い」
「……」
酷い言われようだ。
「どうやったらシズちゃんに伝わるか考えてた」
「なんだそりゃ」
シズちゃんにとってはどうでもいいだろうけど、俺にとっては重要なんだよ。
臨也は考える。態度や仕草で理解したとしても、言葉はやはり重要だ。
今まで付き合ってきた女共は、皆言葉を欲しがった。好きだ、愛してる、大切だ。
男女でやはり違いがあるのだろうか。静雄はあまり言葉を欲しがらない。それとも静雄だからか。最初から信じてないのか。
「臨也」
「何かな」
「好きだぞ」
ぴしっ。
静雄の言葉に、臨也は硬直した。ぽかん、と口を開ける。眉目秀麗な顔が、随分と間抜けだ。
「伝わったか?」
静雄はそう言って、赤い顔を手で隠してしまう。
「信じねえなら別にいーけど」
「俺がシズちゃんの言葉を信じないわけないよね」
そう言ってから、ああそうか。と思う。言葉と言うのは、相手の受け取り方次第でもあるわけだ。
臨也は静雄の体を抱きしめると、肩口に額を押し付ける。
「好きだよ」
シズちゃんも信じてね。
そう言うと静雄は小さく舌打ちをした。きっとこれが、彼の肯定なんだろう。


101020 11:44
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