因果応報





君は考えたことがあるかい?

例えば、君がいつものように自販機を投げたとしよう。その自販機はここら辺には一台しか無かったとする。君が破壊したせいでこの近所の人は飲み物を買うのに遠くへ行かねばならなくなるわけだね。ああ、怒らないでくれ。例え話だよ。俺が言いたいのは人間の行動はそんな風にどこかで他人に損をさせたり悲しみを与えているんじゃないかってことだよ。自分が良くても他人に何かしら影響を与えてるのさ。勿論逆だってある。喜びを与えてる場合もね。でもその喜びの裏では誰かが悲しんでいるわけだ。そして誰かが喜ぶ裏では自分が悲しむことがあるかも知れない。例えば誰かプリンを買って、その店では売り切れた。その店の常連の君が買いに行った時にはプリンは売り切れていてもうない。これだって前者はプリンで喜びがあり、後者は買えずに悲しい。細かいことでもたくさん人間世界には影響があるわけだよ。因果応報っていう言葉があるだろう。何か人を傷付けたら、自分にいつか返って来るんだろうね。怖いよねえ。怖いよねえ。







「…お前は何を言いたいんだ」
静雄はウンザリと舌打ちをし、臨也の顔を睨みつけた。臨也はそれに、にやりと笑う。
「シズちゃんのその怪我、」
静雄の右腕には真っ白な包帯が巻かれていた。怪我が直ぐ完治する彼には珍しい。余程深い傷なのだろう。
「相手にやり返してやったよ」
あはは、と笑い声を上げて臨也は言った。
「二度と池袋、いや、外を歩けないようにしてやった。当然だろう?あいつらは俺を苛々させたわけだよ。君に怪我を負わせることによって」
因果応報だろう?
静雄は眉を顰め、黙り込む。それは因果応報じゃなくてただの復讐じゃないかとかいろいろ思ったけれど、何も口は開かなかった。こいつには何を言っても無駄だから。
臨也はシュルシュルと静雄の包帯を剥いで行く。傷口はもう瘡蓋になっていて、綺麗なピンク色だった。
「シズちゃんに傷をつけるのは俺だけでいいんだ」
臨也はそう言ってナイフを取り出すと、静雄の傷口を刃先で抉る。赤い血が、ポタリと床に落ちた。まるで花みたいに。
静雄は痛みを感じず、それを酷く冷めた目で見下ろして溜息を吐いた。


君を傷付けた者に天罰が下りますように。


101018 02:23
×
- ナノ -