嫉妬





「酷いよねえ?」
「いやあ、それは臨也が悪いよ」

臨也と新羅のお喋りを小耳に挟みながら、静雄は鞄を肩に掛けて前を歩く。放課後の廊下は帰宅する生徒でいっぱいだ。
先程から静雄の後ろで、二人は盛んにお喋りを続けている。男の癖に、良くもまあそんなに口が動くものだ。静雄には理解出来ない。
「またね」
「じゃあな」
「バイバーイ」
時折擦れ違う生徒が臨也へと挨拶をして行く。臨也はそれにいちいち笑顔で答えていた。人気があるのだろう。
「臨也は友人が多いよね」
新羅が感心したように言う。静雄なんて挨拶をされても返しもしない。
「友人、ではないさ。知り合い」
憎たらしい程の端正な顔で、臨也は口端を吊り上げる。嘲るようなそれは、その知り合い達には決して見せないのだろう。
静雄は胸に湧き上がる、ごちゃごちゃした嫌な感情を分からない振りをした。
無意識に早足になっていて、気づけば二人を引き離している。階段を下り、完全に二人の姿が見えなくなると、静雄は更に早足になった。
今日は一人で帰ろう。臨也を見ていたくない。
逃げるように校舎を出て、空を見上げれば真っ青だ。今日は10月の割には暑い。
いつもの道を歩きながら、静雄は唐突に気付く。


これは嫉妬だ。


101012 12:00
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