IndianSummer





飛行機だ。
学校の屋上に寝そべりながら、静雄は酷く平凡な感想を口にした。
臨也はそれに顔を上げ、薄い青空を横切る飛行機を見る。少し向こうに、筆で真っ白な絵の具を引いたように飛行機雲があった。それを見て、空が二つに分けられてしまったな、と臨也は思う。
静雄はもう何も言わなかった。体を横にし、太陽から隠れるみたいにして丸くなる。寝る気だろうか。
小春日和だったが、眠るには少し肌寒いと言うのに。
「寝たら風邪をひくよ」
そう声をかけても、返事はなかった。もう寝ているのかも知れない。
臨也は手を伸ばし、静雄の金の髪を撫でる。ふわりとした手触り。少しだけ傷んでいる。
青い空、飛行機雲、暖かな陽射し。金の髪の青年。
なんだか出来すぎだ、と臨也は苦笑する。それらは何故か静雄に似合っている。この煩わしい、池袋の街で。
静雄の寝息が聞こえる。規則正しい息遣い。よく天敵の側で眠れるものだ。臨也は学ランを脱ぐと、静雄に掛けてやった。人は睡眠時、体温が下がる。きっと寒いだろう。
天敵相手に、自分も何をやっているのやら。臨也は苦笑する。
気紛れな優しさだ。こんなものは。
そう自分に言い訳をして、臨也は静雄の唇に小さく口づけた。



あの時見た空を、臨也は数年経っても何故か覚えていた。青い空、飛行機雲、暖かな陽射し。
目の前に降って来る自販機を避けながら考える。
あの時気紛れでキスをしたことを、今この男に告げたらどうするだろう。
自販機から零れた缶ジュースを踏み潰しながら、目の前の男は銜えていた煙草を投げ捨てる。全くマナーがなってない男だ。
言わないでおこう。あれは自分だけの秘密だ。言ったらきっと面白くはなるだろう。何かこの関係に、変化くらいは起きるかも知れない。
それでも自分は口にしない。
今度は足元にごみ箱が飛んで来る。ああ、全く。街を汚すんじゃないよ。酷いものだ。
臨也は口角を吊り上げて静雄を見返した。
静雄の青いサングラス越しの目が、怒りで煌めいている。
金の髪が風で揺れた。空は青い。飛行機雲が空を二分している。
今日もインディアンサマーだ。


100928 12:12
×
- ナノ -