恋人




「なんでこんなに散らかすの」
臨也は部屋に散らばった衣服や雑誌を見てうんざりしたように言った。
飲み物の空き缶まで置きっぱなしだ。なんで捨てないのだろう。臨也には溜息しか出ない。
静雄はテレビから顔を上げてキョトンとしている。その表情に、臨也はまた溜息を吐いた。
こんなふうに部屋を散らかす事とか、湯舟に入りながら歯を磨くこととか、ご飯を食べながら雑誌を読むこととか、臨也には静雄の嫌いなところが多々ある。
それをいちいち注意をすると、
「小姑みてえ」
なんて言われてしまった。はああぁぁぁぁ。
全く酷いものだ。よりによって小姑とは!
臨也は頭痛がするのを考えないようにして部屋を片付ける。半日留守にしていただけでこれだ。もし仕事で出張なんて事になったら部屋はどうなっているだろう。想像したくない。
「俺はシズちゃんの母親かよ」
ぶつぶつと文句が口を出たらしい。静雄が眉間に皺を寄せてこちらを見た。
「母親ってなんだよ」
「言葉のあやだよ」
全く、余計なことには地獄耳だ。さすがに臨也も喧嘩は面倒だった。
「兄弟でもねえし友達でもねえよな」
静雄は言葉を続ける。臨也はそれを聞きながら衣服を畳んでいく。
「恋人?」
静雄が発した単語にぴたっと手を止めた。
視線を戻せば静雄はもうそれきり何も言わずにテレビを見ていた。まるで臨也なんて初めから居なかったように綺麗に無視をして。
恋人になるのか、これは。
こんなふうに同じ空間で過ごし、気まぐれに体を繋げて、半同棲みたいな今の関係を。
好きだなんて言われた事もなく言った事もないと言うのに。
臨也は静雄が『恋人』と認識していることに少なからず驚いた。そしてそれに喜んでいる自分に戸惑う。
「シズちゃんは恋人に部屋を掃除させるわけ?」
喜びを綺麗に隠して文句を言ってやる。これぐらいは言ったって良いだろう。片付けをさせられているのだから。
静雄は不機嫌な顔で立ち上がると無言で部屋を片付け始めた。一応は悪いと思っているようだ。
部屋は綺麗に片付けられ、フローリングには何も物がなくなった。臨也はやっと一息吐く。
静雄はソファーに座って再びテレビを見ていた。
「シズちゃん」
「なんだよ」
「恋人にご褒美ないの」
片付けてあげたのに。
そう言って静雄の顔を覗き込めば、不機嫌な顔が少し赤くなっている。可愛らしい。
「…何がご褒美だ、死ね」
そう悪態をつきながらも静雄は、顔を覗き込む臨也に口づけた。ちゅ、と触れるだけのキス。
「よく出来ました」
臨也は笑って静雄の頭を撫で、ご機嫌に部屋を出て行く。着替えにでも行くのだろう。
「…調子乗んな、馬鹿」
後に残された静雄は顔を赤くして舌打ちをした。


100924 09:32
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -