7DAYS





その後 A


メールをやり取りしたり、電話で話したり。
一緒に登下校したり、帰りに寄り道したり。
ご飯を食べたり、ファストフード店に入ったり。
休みの日はどこかに行ったり、プレゼントをされたり。
手を繋いだり、キスをしたりするのは。
恋人なら当たり前のことなのだろう。
静雄は今までそんな経験なんてなかったし、確かに楽しかったように思う。
でもこれは偽物で、本物には決してなりえない。

卒業証書を手にして、静雄はぼんやりと池袋の町並みを見ていた。
こんな日に屋上に来る生徒なんていない。少し離れたベンチに、新羅が座って同じくぼんやりとしている。
「さびしいね」
新羅がぽつりと言うのに、静雄はそうだな、と相槌をうった。そうだな、少しだけな。
嫌な思い出だらけの三年間。それでも少しだけ寂しさを覚える。喧嘩と暴力に塗れた三年間だったけれど。
風景を眺める静雄の制服はボロボロだった。こんな高校生活最後の日でも、結局天敵と喧嘩をした。体も心も傷だらけになりながら。
新羅はそれを、二人らしいとは思う。だから止めなかった。例え今日が最後の日でも。

「二人して感傷に浸ってるの?」
きもちわるぅい。
そう言って臨也が屋上へとやって来た。口角を吊り上げて。
静雄はそれに舌打ちし、新羅は苦笑した。
「君も感傷に浸りたくて来たんじゃないのかい」
「まさか。俺はそんな無駄なことはしない」
新羅の言葉に臨也は大袈裟に両手を上げる。笑いながら。
静雄は二人を無視し、出口へと歩き出す。もう今日は天敵とやり合う気にはなれなかった。
「シズちゃん」
名を呼ばれ、振り返る。
「なんだよ」
「俺、新宿に引っ越すんだ」
「だから何だ」
苛々が募る。早く、この場から去りたい。
「でもたまに池袋に来るからさ」
臨也は口端を吊り上げた。
「そしたらまた相手してね?」
あはははは、と笑い声を上げて。
静雄はそれに舌打ちをした。ウンザリとして。
再び踵を返し、屋上を出て行く。そして今度こそ振り返らなかった。


「何だ、結局池袋には来るんだ」
新羅が肩を竦めて笑うのに、臨也は目を細めてフェンス越しの風景を見た。
「池袋は楽しいからね」
「静雄に会いに来るんでしょ」
新羅は笑いを含んだ声でそう言ったが、目は笑っていない。
臨也はそれには何も答えなかった。ただ黙って笑い、空を見上げただけだ。青い空を。
「結局俺は、シズちゃんからは卒業出来ないんだ」
やがてぽつりと臨也が口にした言葉は、きっと真実なのだろう。そしてそれを臨也は不快に思ってはいない。
多分それは静雄の方もだよ。
新羅はそう思ったけれど、口には出さなかった。多分、臨也も分かっている筈だから。
「臨也」
臨也の端正な横顔を見ながら、新羅は口を開く。
「高校生活楽しかったかい?」
そう問うのに、臨也は顔を上げた。


「一週間だけはね」


101014 09:57
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