7DAYS





その後 @


最初から。
こんなの分かっていた事だ。

臨也のナイフが頬を微かに掠る。痛みに強い静雄には、そんなもの蚊に刺された程度だ。血が流れることもなく、せいぜい滲んでいるだけだろう。
ナイフを握る臨也の手には指輪はない。静雄はその手を振り払った。臨也の高い、嫌な笑い声が廊下に響く。
静雄が拳を振り下ろすと臨也は軽々と避け、窓ガラスが割れる。風通しの良くなった窓から、臨也は校舎の外へ飛び降りた。
走り去る臨也を見ながら、静雄は息を吐く。走り回ったせいで汗が顎を伝って落ちた。

あの一週間は忘れてしまおう。
なかったことにしてしまおう。
何度も何度もそう言い聞かせるのに、静雄のそれは叶わない。




「もう直ぐ卒業だねえ」
ぽつんと新羅が言うのに、静雄は黙っていた。
外には生暖かい風。毎年早くなる開花宣言は、今年も更新された。
「早く卒業してえ」
静雄が口にした言葉は、本心だ。早く卒業して、この毎日臨也に会う地獄から解放されたい。
新羅は苦笑したようだ。苦笑はしたが、何も言わなかった。
静雄は携帯を見ながらぼんやりとしている。時折、強い風が窓を揺らして音を立てた。春一番だろう。
ふと新羅の視線が廊下に向く。釣られて静雄も見た。
ちょうど臨也がやって来るところだった。臨也はこちらの視線に気づいたのか、口端を吊り上げた。赤い目が静雄を真っ直ぐに捉える。
新羅は笑い返して手を振り、静雄はそれから不機嫌に目を逸らす。やがて臨也は通り過ぎたようだ。
「もうすぐ卒業なんだから、仲良くしなよ」
新羅は駄目元でそう言ってみるが、静雄はそれに答えもしなかった。ただじっと携帯のメモリを眺めている。
以前よりも悪くなった関係に、新羅はまた溜息を吐いた。少しは関係に変化があるとは思ったのに、以前より酷くなるとは。
「臨也、卒業したら新宿に行くそうだよ」
新羅がそう言うのに、静雄はそうか、と一言答えただけだった。
会う機会が減るのなら、清々する。このまま二度と会わなくても構わない。

静雄は無表情に、携帯のメモリを一件削除した。


101013 08:29
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