7DAYS






八日目


次の日は晴天だった。
静雄はマフラーをして、朝の忙しない街を歩く。十字路を抜け、角を曲がり、信号機を渡る。
先週毎朝臨也が待っていてくれた場所には、当然誰もいなかった。
当たり前だ、もう罰ゲームは終わったのだから。
「静雄」
声を掛けられ、振り返ると眼鏡の友人が立っていた。
「おはよう、静雄」
「おはよう」
静雄はまた歩き出す。新羅はそれににこにこと笑って続いた。
「昨日写真見たよ」
「写真?…ああ」
静雄は思い出し、無意識に目を伏せる。そう言えばそんなのも撮ったな、と言いながら。
「持ってないの?送ろうか?」
「いらねえ」
形に残るものなど、いらない。何一つ。
「ちゃんと罰ゲームやってくれてありがとうね」
新羅はぽん、と静雄の背中を叩く。静雄は何も言わなかった。
新羅は歩を早めて静雄の隣に並ぶと、その表情を見て苦笑した。
「そんな悲しそうな顔をしないで、静雄」
「誰が…」
「自覚ないの?」
ふわりと口から息が舞う。真っ白に空へ向かって。
静雄はもう言葉を発することはなかった。学校について、天敵に喧嘩を売られるまで。



「いざやあぁぁぁぁぁ」
静雄の咆哮が校舎に響く。机や椅子が窓ガラスを破壊し、校庭の空を飛ぶ。
まるで一週間がなかったように、いつも通りの朝。
臨也は口端を吊り上げ、窓から外へと逃げ出す。そこへ静雄が机を放り投げ、窓ガラスが粉々になった。


校庭を走る二人の姿を、新羅は窓から見守っている。窓枠に手をついて、苦笑しながら。
「罰ゲームは終わりか?」
声を掛けられ振り返ると、門田が立っていた。
「そうだね、一週間経ったから」
「良くあいつらがちゃんとやったな」
門田はそれに一番驚いている。途中で投げ出さず、最後まで従ったとは。
「きっと仲良くなりたい気持ちがあったんだよ、二人ともね」
新羅は眼鏡の奥の目を細めて軽く息を吐く。
「ああやって元通りみたいにしているけど、でも」
もう元通りにはならないだろうなあ。
新羅は少しだけ後悔をしていた。



101011 09:50
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