7DAYS






七日目C


公園の噴水の縁に座って、二人は空を見上げていた。
寒いせいか人はいなく、噴水の音だけが辺りに響く。池袋の明るい空には少ないながらも星が見えていた。
静雄は真っ白な息を吐きながら、さっきから時間を気にしている。携帯の時計を見ると、もう直ぐ23時だった。
「そろそろ帰る?」
そんな静雄を見て、臨也が立ち上がる。臨也の息も白い。
「…そうだな」
静雄は携帯に視線を落としたまま頷く。高校生があまり夜中を出歩くのはまずいだろう。昨日は外泊もしてしまったし、明日は平日だ。そろそろ帰らねば弟が怒るかも知れない。
「最後に写真撮ろうか。新羅に証拠を送ろう」
臨也は微かに笑って、携帯を取り出す。静雄の肩に腕を回して体を密着させ、写真を一枚撮った。
それを新羅に送信する間、臨也はずっと静雄の背中に腕を回している。静雄はそれに戸惑って離れようとするけれど、その手は離れなかった。
「送ったよ」
臨也はそう言って、間近にある静雄の耳元に唇を寄せる。静雄の体が僅かに硬直した。
「もう最後だから、」
キスをしていいかな。
吐息と共にそう囁かれ、静雄は身を震わせる。
背中に回された手が下りて来て、腰を引き寄せられた。
至近距離にある臨也の端正な顔に、静雄は目を逸らす。
「いちいち聞くなよ、そんなこと…」
キスなんて、いつでも勝手にすればいい。まだ時間的には恋人同士なのだから。
臨也はそんな静雄にくぐもった笑い声を上げ、ゆっくりと唇を重ねた。同時に静雄の目が閉じられる。微かに臨也の香水の香りがした。
「時間を」
触れるだけのキスが終わり、臨也は身を離す。
「時間を止める魔法は、俺にはなかったみたいだ」
そう囁いて、臨也は静雄から距離を開けた。
静雄は目を開いて、じっと臨也を見る。臨也の赤い目が、穏やかな色をして自分を見るのはこれが最後だろう。
「さよなら、シズちゃん」
臨也は笑って踵を返す。
静雄はそれを黙って見送った。青い色鮮やかなマフラーが見えなくなるまで、ずっと。
誰もいなくなった公園で、静雄は無言で空を見る。口から上る息は白い。
静雄はやがて左手の薬指から指輪を抜くと、ゆっくりと歩き始めた。



101010 21:10
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