7DAYS






七日目A


電車は日曜の朝のせいか比較的空いていた。それでも二人は座席には座らず、扉付近に立つ。外の風景を見るために。
車窓からずっと見えていた海が見えなくなり、静雄は少し寂しい。次に海に来る機会はもうなかなかないだろう。ましてや初冬の海など。
臨也に視線を移せば、臨也は風景ではなく静雄をじっと見詰めていた。それに静雄は首を傾げる。
「なんだよ」
「なんでもないよ」
臨也は笑う。静雄はそれにまた首を傾げ、後は何も言わなかった。いつもの自分なら苛立ったろうが、今は何とも思わない。
何度か乗り換えをし、風景はその都度変わる。段々とビルが立ち並び、ネオンが増えて来る。都心に戻ってきたのだと実感した。
「凄い遠くに行った気がするけど、1時間半ぐらいで着いちゃうんだね」
臨也が携帯の時計を見て呟く。その顔は無表情で、静雄には臨也が何を考えているのか分からなかった。
池袋に着いて電車から降りると、臨也は静雄の手を繋ぐ。人が大勢いる駅を、静雄の手を引いて縫うように出た。
「どこ行こうか?」
臨也は静雄を振り返って笑う。
「まだ0時まで15時間近くもある」
逆に言えば後15時間しかない、と静雄は思ったが口には出さない。
「何がしたい?シズちゃんがしたいことを俺は叶えてあげるよ」
臨也は静雄の手を握る力を強くした。0時まで俺は君の恋人だからね、と笑って。
「普通のことがしたい」
静雄がこう答えるのに、臨也は僅かに目を見開く。
「普通のこと?」
「うん」
「じゃあ映画見てショッピングでもしようか。その前にご飯を食べて」
人通りが多い60階通りを、二人は手を繋いだまま歩く。二人を知っている人間達が驚いてこちらを見るが、気にしなかった。
普通のこと。
静雄と臨也の関係は普通ではない。普段は恋人なんてものではないし、友人でさえないのだ。趣味について語ったこともなければ、どこかで遊んだこともない。
だからもう後は普通で良かった。あと数時間だけは、普通に過ごしたい。
どうせ明日には、
……
静雄はもう考えるのをやめた。



101007 13:36
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