7DAYS






七日目@


出るところを誰かに見られたくない、と静雄が言うので二人は早朝にホテルを出た。
外はまだ薄暗く、昨日よりも海風が冷たい。波は穏やかで、水平線のずっとずっと向こうには、夕陽と間違えそうな朝陽が見えた。
静雄はそれをぼんやりと眺め、
「綺麗だな」
と一言呟く。
臨也は何も答えなかった。ただ黙って朝陽を見詰め、目を細めただけだ。
二人は殆ど会話もなく、ゆっくりと駅までを歩く。時折強い風がふいて、二人の髪を揺らした。
くしゅんっと静雄がくしゃみをするのに、臨也は苦笑する。
「シズちゃんは寒がりの癖に薄着なんだから」
「うるせえ」
鼻水を啜り、静雄は寒さに身を震わせた。
臨也はそんな静雄に自身のマフラーを掛けてやる。こないだのように。
「お前は寒くねえの」
「俺はシズちゃんよりは寒がりじゃないからね」
臨也は微かに笑い、静雄の首にマフラーを巻く。静雄は俯いて臨也の好きにさせていた。
マフラーにはまだ臨也の温もりが残っていて、静雄にはそれが熱いくらいだ。
「終わり」
言われて顔を上げれば、その瞬間に口づけられた。優しく触れるだけのキス。静雄はそれに目を丸くする。
臨也はそんな静雄を見て唇を歪め、片手を前に差し出した。静雄は訝しげに眉を顰める。
「なんだよ」
「たまにはシズちゃんから手を握ってよ」
いつも俺からだからさ、と言って臨也は笑う。
静雄はそれに驚いたように目を見開き、ウンザリとしたように舌打ちをした。頬を赤く染めて。
渋々と言った風に臨也の手を握る。臨也はそれににっこりと笑みを浮かべ、静雄の手を引いて歩き出した。
この手を握るのもこれが最後だろう。
静雄は手を引いて歩く臨也の後ろ姿を見ながら考える。
罰ゲームの一週間が終わった明日からは、この白い手はナイフを握って自分を切ろうとするのだろう。いつものように。
波の音がする。空は段々と明るくなり、いつもの一日が始まる。誰もいない海辺。潮の香り。
自分はこの日を一生忘れないだろう。
例え臨也が忘れても。
「……が、あったらいいのにね」
「え?」
波の音で臨也が何を言ったのか聞き取れなかった。臨也がこちらを振り返る。
「時間を止める魔法があったらいいのにね」
赤い双眸を細め、臨也ははっきりとそう言う。静雄はその言葉に黙り込んだ。何て返せば良いか分からなかったから。
ただ今この瞬間に、臨也が自分と同じ事を考えていた事を知った。


101006 09:14
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