7DAYS






六日目A


唇が離れると、臨也は静雄の手を取った。
「シズちゃんも入ってみなよ」
「さみぃし、嫌だ」
静雄は赤くなって目を逸らす。握られた臨也の手は冷たい。
「少しなら平気だよ」
ほら、と臨也が促して来るのに、静雄は渋々とスニーカーを脱ぐ。
砂浜に座り込み、靴下も脱いだ。裸足で踏む砂浜は、少しだけ気持ちが悪い感触だ。
「冷てえ」
海水に足を浸けて、静雄は直ぐに後悔した。思っていたよりも冷たい。
「シズちゃんって寒がりだよね」
臨也は笑って突然水を掛けてきた。至近距離では避けられず、静雄の衣服が濡れる。
「何すんだ、馬鹿野郎!」
着替えもタオルも持って来てないと言うのに。
顔にも海水を掛けられ、静雄の前髪からポタポタと雫が落ちた。
手の平で海水を掬い、やり返してやる。臨也が笑って逃げるのを追い掛けて。
気付けば二人ともびしょ濡れだった。
「どうすんだよ、これ」
静雄は犬みたいに体を振った。水しぶきが飛び、臨也は笑う。
「どっか休憩する?」
「どこだよ」
「ラブホテルとか」
臨也がさらりと言うのに、静雄はぽかんとした。
「だって乾かさないと駄目だろう?シャワーも浴びれるし」
臨也は肩を竦め、マフラーを外した。真っ青なそれも、濡れて色濃い。
「…同性って泊まれんのか?」
「さあ?」
「……」
「普通の旅館とかでもいいけど」
ひょっとしたら家出少年扱いされるかも知れないけど、と臨也は笑った。
静雄は足の砂を払い、とりあえずスニーカーを履く。踵を折って、裸足のまま。
「どっちでもいい」
休憩なのか、外泊することになるのか、それさえも静雄はどちらでも良かった。
臨也はそれに微かに笑い、静雄の手を再び取る。
「じゃあホテルにしよう。逃げないでね、お姫様」
「死ね」
何が姫だ、と悪態をついて、静雄は臨也に手を引かれて歩き出した。
逃げないで、と言う言葉の方が、本当は心に刺さっていたのだけれど。
繋がれた臨也の手は、相変わらず冷たかった。


101004 23:10
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