7DAYS






五日目B


告白されたりするのは苦手だ。ろくに知りもしない相手から、どうして好きだと言われねばならないのだろう。
自分のどこがいいのか分からないし、相手のどこがいいのかも分からない。付き合って見てから分かることもあるだろうが、付き合う気もそもそもない。
静雄は先程の女を思い出そうとしたが、もう既に顔も朧げだ。名前さえも覚えていない。
告白と言うのは自己満足なのではないだろうか。相手はフラれてもそれで諦めがつくが、こちらには少し後味が悪い想いが残る。
静雄は何度目かの溜息を吐いた。
「まだ気にしてるの」
半歩先を歩く臨也が、不機嫌な顔で振り返る。「俺と一緒にいるのに他の女のことを考えるのはやめてくれないかな」
「別に考えてねえよ」
静雄は舌打ちをすると歩を早めた。臨也を追い越して先を歩く。
学校での授業が終わった夕方。空は薄暗く、西の空はオレンジ色だ。吐く息はいまだに白い。朝よりはマシな寒さだったが、外はひんやりとしていた。
静雄はわざと息を吐いて、白い息が昇るのを見る。鼻先や指先が冷たい。手を制服のポケットに両方突っ込んで、手だけでも冷気から庇うことにした。
何が俺と一緒にいるのに、だ。
臨也との恋人ごっこも、登下校は今日で終わりだった。明日から土日で、学校はない。土日が過ぎれば約束の一週間が終わる。
「シズちゃん」
後ろから声を掛けられるのを無視した。
「シズちゃんってば」
あと二日でこの下らない恋人ごっこも終わる。そしたら一発くらい新羅を殴ろう。そうしよう。
「シズちゃん」
少し強く名前を呼ばれ、腕を掴まれた。体を引っ張られ、強引に臨也の方へ向き直される。
それに驚いて臨也の顔を見れば、真摯な色を宿した赤い目とかちあった。
臨也はそのまま、静雄の手を掴む。
「冷たいよ、シズちゃん」
寒さで冷たい静雄の手を、臨也ははあっと息を掛けた。静雄は赤面して手を振りほどく。
「大丈夫だ」
「顔も冷たいね」
静雄の頬にも触れて、臨也は目を細める。臨也の手は温かかった。
臨也は自身がしていたマフラーを、静雄に掛けてやる。驚く静雄に、そのままぐるっと巻き付けてしまった。
「お前が寒いんじゃねえの」
「俺は平気。朝よりはマシだし」
おいで、と臨也は静雄の手を繋いで歩き出す。別にいらねえのに、と小声で呟く静雄に笑いながら。
臨也の口から白い息がふわりと上がる。夕方の茜色が綺麗だ。静雄は目を細めて空を見上げた。
「明日暇?」
「え?」
「休みだしデートしようよ」
「デートって、」
「どっか」
臨也は静雄の手を引いて前を歩く。静雄からは臨也の顔は見えない。
「いい?」
臨也の握る手が僅かに力が入るのが静雄は分かった。
「いいぜ」
どうせ暇だし。
静雄が不機嫌な声を作ってそう言うのに、臨也は声を出して笑った。


101003 10:16
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