7DAYS






五日目@


口づけられた感触は、いつまでも静雄の頭から離れなかった。
きっと臨也は何とも思っていないのだろう。今までにも色んな相手としていて、自分はその中の一人に過ぎない。静雄にとってはファーストキスだったのに。
はあっと溜息を吐けば、それは真っ白に消える。今朝もいやになるくらい寒い。
待ち合わせの場所はもうすぐそこだ。それまでに頭を切り替えよう。

臨也はいつも静雄より先に待っていた。静雄が少し早めに来ても、臨也は大概先にいる。
「おはよ」
「…はよ」
挨拶をして歩き出す。臨也は今日はマフラーをしていた。真っ青な。
「シズちゃん寒くないの?」
「寒い」
「マフラーとか手袋とかしなよ。風邪ひくよ」
臨也はそう言って静雄の手を握る。静雄は暖かいその手を、普通に握り返した。
例えば臨也の手は暖かいのだとか、双子の妹がいるとか。こんな情報は、喧嘩をしているだけでは分からないものだ。たぶん、静雄は初めて折原臨也と言う人物に触れたのだと思う。
「寝不足?」
「え?」
「目が赤い」
言われて静雄は目を擦る。昨日は色々考えて眠れなかったから、寝不足なのは本当だった。
「擦ったらダメだよ」
臨也はそんな静雄の手を止める。静雄は素直にその手を下ろした。
「ひょっとして昨日キスしたせい?」
ずけずけと聞いてくる臨也に、静雄は瞬時に顔を赤くする。
「ちげえよ、思い出させんな」
ああ、もうっ。直ぐに赤くなってしまう自分にも腹が立つ。静雄は顔を伏せ、臨也を置いて歩き出した。
臨也はそれに笑ってついて来る。
「待ってよ」
「うるせえ」
「初めてだった?」
「うざい」
「好きだよ」
不意にそう言われ、静雄は思わず振り返った。
「恋人なんだから、キスもすれば愛も囁くよ」
臨也はそう言って笑う。例え七日間だけの限定だとしても。
静雄はそんな臨也から視線を外し、再び歩き出す。
キスも告白も偽りだと言うのに。
二人はそれきり、学校に着くまで口をきかなかった。


101001 13:38
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