7DAYS






四日目A


臨也は入口の扉に背を預け、静雄をじぃっと見詰めてる。
「帰ったんじゃなかったの」
「……」
静雄は小さく舌打ちをし、顔を背けた。
静雄のクラスは臨也のクラスから離れている。まさか見られるなんて思ってなかった。
臨也は教室の中に入って来る。静雄の隣まで歩み寄り、顔を覗き込んだ。
静雄はそれに不機嫌な顔で視線を合わす。僅かに頬が赤い。
「待ってたの?」
「待ってねえよ」
即答する静雄に、臨也は口角を吊り上げる。
「待ってたなら言えばいいのに」
「待ってねえって」
静雄は苛々とまた視線を逸らした。ああ、もううぜえ。嘘をついた自分が恨めしい。
臨也はそんな静雄を楽しそうに見つめている。きっと見透かされてるんだろう。静雄はまた舌打ちをした。
「嘘なんてつかないでさ、素直に待ってたって言えばいいんだよ」
臨也はそう言って静雄の頬に手で触れる。優しくこちらを向かせ、視線を合わせてやった。
「…待ってねえし」
そんな臨也に静雄が言う言葉はこれだけだ。顔が少し熱いのが自分でも分かった。
「取り敢えず帰ろっか」
臨也は笑って手を離す。あまりからかって静雄が本気で怒ったら始末に終えない。ここは引いた方が得策だろう。
静雄はそれに渋々と従った。さっさと教室を出る臨也に続いて、廊下へと出る。
「あ、そうだ。シズちゃん」
「?」
振り返った臨也は、そのまま素早く静雄に唇を重ねた。ちゅっと触れるだけのキス。
「待っててくれたご褒美」
そう言って臨也は口角を吊り上げた。
静雄は目を丸くしてぽかんと臨也を見返す。
一秒後には真っ赤な顔が見れるのだが、臨也はわざと振り返らずに先を歩いた。
これ以上刺激をすると黒板やら投げられそうだ。この恋人ごっこが始まる前の関係みたいに。
臨也はこの恋人ごっこを楽しんでいる自分を知っている。始めはウンザリとしたものの、静雄の意外な面を知るのは楽しい。周りの反応も滑稽だった。
だから今だけは。
今だけは、静雄を怒らせずに過ごしたい。
臨也はそんな自分の考えに、僅かに自嘲した。



100930 21:32
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