7DAYS






三日目@


教室の黒板には、でかでかと自習と書かれていた。
勉強する者、携帯を弄る者、小声でおしゃべりする者。十人十色だ。
静雄は自分の窓際の席に座り、携帯を見ていた。カチカチと操作して、親友にメールを打つ。
静雄はあまり携帯は見る方ではない。暇を持て余した時や、必要不可欠なメールしかしない。
携帯の送信中の画面から視線を外し、静雄はグラウンドを見た。グラウンドでは体育のクラスが、ソフトボールをしているらしい。
どうやら臨也のクラスらしいと、静雄は直ぐに気付いた。
少し大きめのジャージを着た臨也が、怠そうに地べたに座り込んでいる。サボっているのだろう。クラスメイトと何やら話しながら、携帯を見ていた。体育でさえも携帯を離さないのか、と静雄は少し呆れる。そう言えば臨也は、いつも携帯を数台身につけていた気がした。あの下らない趣味の為なのだろう。馬鹿みたいだ。
その時、手にしていた自身の携帯が震え、静雄は驚いて画面を見た。親友からメールの返事が来たらしい。
あまりにもタイミングが良すぎて、一瞬あの男からだと思ってしまった。あの男のアドレスなど静雄は知るよしもないし、あちらも同じだろう。
静雄は親友からのメールを読むと、携帯を閉じる。そしてもう二度と窓の外は見なかった。机に突っ伏して、寝てしまう。授業が終わるまで。



「今日さ、見てたでしょ」
帰り道。一緒に帰りながら、臨也が言う。
「何を?」
「体育」
「ああ…」
言われて静雄はやっと気付いた。なんだ、あの事か。
「シズちゃんって結構携帯見てるんだねえ」
「たまたまだ」
お前とは違う、と静雄は目を伏せる。なんとなく、自分が臨也を見ていたことに、触れたくなかった。
臨也はそれ以上何も言及せず、二人は池袋の町並みをゆっくり歩く。吐く息は白く、空気は冷たい。
「でさあ、シズちゃん」
やがて臨也が口を開き、突然立ち止まった。静雄も釣られて立ち止まる。
「なんだ?」
「メールアドレス交換しようよ。あと電話番号」
臨也は静雄を振り返って携帯電話を手にした。赤外線通信しよう、と言って。
「……」
静雄はそれに嫌々ながらも携帯を取り出す。顔は不機嫌な表情を浮かべたまま。本当は静雄も臨也のアドレスを知りたかったのだけれど、それをおくびにも出さずに。
アドレスを交換し、臨也は満足げに携帯を閉じる。静雄も無造作にポケットに突っ込んだ。
臨也はそれに僅かに笑い、静雄の手を取る。
「繋いで帰ろうよ。ね?」
臨也が手を引いて歩き出すのに、静雄は何も言わなかった。


100928 23:17
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