7DAYS






二日目@


吐く息が白い。
朝はもうすっかり寒くなってしまった。
静雄は身を縮めるようにして、池袋の街を歩く。同じ方向へ同じ制服を着た生徒たちの姿が増えていく。いつもの朝。
ふと視線を前に向けると、赤になった信号機の前で学ラン姿の男が携帯を弄りながら立っていた。静雄は無視したい衝動に駆られるが、まだ罰ゲーム中なので我慢するしかない。
信号が青になり、横断歩道を渡って声を掛けた。
「臨也」
「おはよう、シズちゃん」
臨也は携帯をポケットにしまい込むと口角を吊り上げて笑った。臨也の吐く息も白い。
「なにしてんだよ」
「一緒に登校しようと思って」
「こんなとこで待ってたのか」
静雄は少し驚く。寒いだろうに。
「だってここなら確実に通る道だろう?」
臨也はそう言って歩き出す。静雄も無言でそれに続いた。
登校中の生徒がチラチラと二人を見る。見られるのは慣れているが、今日のは視線の意味が恐らく違う。
「今日は寒いな」
静雄は歩きながら空を見上げた。はあっと吐いた白い息が空へと上がる。
「もう直ぐ冬になるよ」
臨也は振り返り、静雄の手を取った。
「なんだよ?」
「手を繋いで行こう」
付き合っているんだからね。そう言って臨也は、意地悪な笑みを浮かべて手を繋ぐ。
静雄はそれに一瞬手を引くが、臨也の手は離れなかった。
「…お前の手、冷てえ」
静雄の手も冷たいが、繋がれた臨也の手はもっと冷たかった。
「直ぐに温かくなるよ」
臨也が言う通り、繋がれた箇所から体温が温かくなっていく。それは静雄にはなんだか不思議な気分だ。
やがて校舎が見えて来る。登校の生徒たちも増えたが、二人は手を離さなかった。ぎゅうっと繋がれた手だけが暖かい。
「…明日は」
「ん」
「ちゃんと場所と時間を決めようぜ」
登校する時。
静雄がそう言うと、臨也は少し驚いたようだった。が、直ぐにそれを笑みに変える。
「場所も時間もシズちゃんに合わせるよ」
「お前はいいのかよ」
「シズちゃんは俺の大事な恋人だからね」
臨也がハハハと笑い声を上げて手を離した。生徒玄関に着いたからだ。
「…バーカ」
静雄はウンザリとそう答え、去っていく温もりを考えないようにした。


100927 10:58
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