7DAYS






一日目A


「シズちゃん、なんかあったかい物を飲んで帰ろうよ」
「は?嫌だし」
雨が降っているし早く帰りたい。はあっと吐く息が白かった。
「付き合ってるなら少しでも一緒にいたいもんなんだよ」
経験がないシズちゃんには分からないだろうけど、と臨也は口角を吊り上げる。
静雄はそれに小さく舌打ちをした。
ああ…。本当に、全く、本気で、死ぬほどうざい。
何故あんな賭けなどしたのだろう。新羅の奴が勝つだなんて、本当にムカつく。
臨也は透明傘をくるんと回して静雄を見た。その顔はいつもの笑みを浮かべている。こいつは何で平気なんだろうか。天敵とも言える自分たちの間柄で。
静雄は臨也に促されるまま、ファストフード店に入った。
奢ってあげるよ、なんて言われて他の物も頼んでしまった。対して臨也はコーヒーだけだ。
「お前それだけ?」
「ジャンクフードは嫌いなんだ」
「じゃあ何でこんなとこ入ったんだよ」
訝しがる静雄に、
「シズちゃんがこの店が好きだから」
と答えた。
ハンバーガーを食べながら、静雄は眉をしかめる。この男に気を遣われているのが気持ちが悪かった。
臨也はテーブルに頬杖をついて笑う。眉目秀麗な顔で。きっと相手が女ならば、その笑顔にうっとりとするのだろう。
ファストフード店で、二人の男子高校生が一緒に食事をしている。本来なら何の変哲もない光景。しかし二人を知る者には異様な光景だろう。たまにチラチラと視線を感じていた。
「ジャンクフードは嫌いだけれど、値段だけは評価するね」
コーヒーを飲みながら、臨也は静雄が食べる様を見ている。静雄は意外に食が細く、少し食べただけで腹がいっぱいだと呟いた。
「一口ちょうだい」
臨也にそう言われ、静雄はハンバーガーを差し出す。
「食いかけでもいいのか?」
静雄の問いに答える前に、臨也はそれを口に入れた。静雄の手から、パクりと一口。
「…やっぱり俺には合わないみたいだ」
臨也はゆっくりと咀嚼して、顔をしかめる。やはり気に入らなかったらしい。静雄はそれに思わず笑ってしまった。
「苦手なら食うなよ」
「シズちゃんが美味しそうに食べてるからさ」
臨也は肩を竦め、コーヒーで口直しをする。口に苦味が広がり、ハンバーガーの味は消えていく。
二人は傍から見れば普通に友達同士に見えた。普段殺し合いみたいな事をしているなんて、誰も思わないだろう。
「ねえ、シズちゃん」
「なんだ」
臨也が口角を吊り上げて静雄を見上げて来る。臨也がこう言う顔をしてくる時は、静雄にとって嫌な事が多い。
「今の間接キスだねえ」
「………………死ね」
やっばりだ。
舌打ちをして額を手で押さえる静雄に、臨也はハハハと笑った。



100926 22:15
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