岸谷新羅の憂鬱
ガシャーン!
窓が派手な音を立てて割れるのに、新羅はあちゃーと額を手で押さえた。
部屋の中には大層お怒りのバーテン服の男と、真っ黒なコートを着た男が対峙していた。
二人は互いを睨みつけている。間違いなく真ん中にいる新羅はアウトオブ眼中だ。ここは新羅の家だと言うのに。
二人が鉢合わせした時点である程度の破壊は予想していたけれど、窓ガラスは困ったものだ。後で修理しなくては。
「大体一週間も連絡寄越さないでどう言うつもりなの?電話も出ないし」
「うるせえ。手前とはもう会わねえって言っただろうが」
会話から察するに痴話喧嘩らしい。あーあ、とばっちりだ。新羅はため息をつく。
「しょうがないだろ、俺だって仕事あるんだからさ」
「じゃあずっと仕事だけしてろよ、うぜえ」
喧嘩の内容が新婚の夫婦みたいだ。
こんなこと言ったら殺されるだろうけど。
「シズちゃんだってあの上司やらセルティやら他のやつと仲良すぎだろう?」
「手前だってあの美人な秘書いんじゃねえか」
ヤキモチってやつなのかな?あーあ、ガラスをとりあえず片付けよう。怪我したら大変だし。
「俺はシズちゃんだけが大事だって言ってるじゃないか」
「…っ。そ、そんなの信じられるかっ」
新羅は箒と掃除機を取りに部屋を出た。後ろではまだ言い争う声がしている。
「…シズちゃん…」
「…ん」
新羅が掃除道具を手に戻って来ると、二人はもうイチャついていた。
友人とは言え人が見ていると言うのに何なのだろう、この光景は。あっ、キスまでしてるし!
「……ん」
「…あ、…やっ」
その先はいくら何でも人んちじゃまずいんじゃないのかな!
「君ら早く出て行って?あ、ガラスは弁償してよね!?」
100917 09:13