喪失
好きだと言われた。
気持ち悪い、と言ってやった。
だってそうだろう?自分たちはいつだって殺し合って来たじゃないか。
それも同性だ。いくらなんでも恋愛感情なんて有り得ない。
そう言うと、相手はそうか、と言って笑った。今まで自分には見せたことがない笑顔で。
臨也はその笑顔を、一生忘れないだろう。
「あれ、静雄の彼女だよ」
新羅がそう言うのに、臨也はふうんと言った。他に感想なんてない。
臨也は窓枠に手をかけて、静雄の後ろ姿を見ていた。
隣には彼女らしき女の子がいて、二人で仲良く下校中だ。
静雄はとても優しそうな顔で彼女を見ていた。きっと、大切にしているんだろう。彼は根が優しいから。
臨也が静雄に告白され、振ってから数ヶ月が経った。
時が流れるのはあっという間だ。
静雄はまるであの告白はなかったかのようにそこにいた。
ひょっとしたら夢だったのかも知れないと、臨也だって未だに思う。
けれど静雄の緩やかな変化が、あれは夢ではなかったと知らせていた。
静雄はだんだんと臨也と喧嘩をしなくなり、力のセーブも覚えていった。
臨也がどんなに挑発をしても乗らず、ただ苦笑するだけになった。
あの爛々と煌めく瞳で睨まれるのを気に入っていたのに。
あの力が何もかも破壊していく様はとても綺麗だったのに。
もう失くなってしまった。何もかも。
あの日、あの時に、臨也は多分選択を失敗したのだ。
もしもあの日に戻れるならば、臨也は自分の気持ちを正直に告げていただろう。
今日も、静雄は笑っている。穏やかな顔で。
隣には可愛らしい女の子。
「臨也は馬鹿だね」
新羅は一言そう言った。
臨也はそれには答えなかった。
201010302247