セルティといっしょ。






「暑い」
なんでこんなに暑いのだろう。9月だと言うのに。
しかし蝉の鳴き声は殆どしなくなった。土に還ったんだろうか。役目を終えて。
「暑い…」
静雄はもう一度口にした。
隣でセルティは笑っている。笑っているのだと思う。顔はないけど分かるのだ。
『静雄は夏でもその格好なのだな』
そう言うセルティは上から下まで真っ黒のライダースーツだ。暑くないのかと聞けば、暑くないと言われた。
ほぼ毎日、静雄とセルティは夕方にこうやって話す。仕事が終わった後に。セルティは静雄の怒りに触れる発言を全くしない。言わば、あの男と真逆の位置にいる。あの男…天敵の折原臨也。静雄が世界で一番大嫌いな男。
静雄はそれを思い出してしまい、機嫌が下降した。
『そう言えば新羅がたまには遊びに来いと言っていたぞ』
「ああ…うん。そうだな」
セルティの言葉に、臨也のことから新羅へと思考が移る。岸谷新羅。小学生の頃からの友人だ。
自分と折原臨也の真ん中でいつも空気を読まずに笑っていた。学生じゃない今も、新羅にはたまに会っている。恐らく臨也も会っているだろう。奇跡と言うか何と言うか、新羅の家で臨也と鉢合わせをしたことはまだない。
「やあ」
天敵の事を考えていた矢先、その天敵の声がする。静雄は顔を上げた。
見れば臨也が静雄とセルティの前に立っていた。いつもの笑みで。
「臨也」
「相変わらず仲が良いね、君達」
「うるせえ。あっちに行け」
静雄はウンザリしたように目を反らす。親友との穏やかな時間を邪魔されたくなかった。
『何か仕事か?』
セルティが問う。臨也が静雄に用があるわけない。犬猿の仲なのだし。だとしたら自分にだろう、とセルティは思った。
「用事があるのはシズちゃんに」
臨也は口端を吊り上げる。静雄はそれに、眉間の皺を深くした。
「なんだよ」
「今日は告白しに来たよ」
「は?」
静雄はぽかんとする。隣でセルティは固まった。
「好きなんだ。付き合ってくれないかな」
臨也はコートの両ポケットに手を突っ込んで言う。にっこりと笑顔を浮かべて。
三人の間に長い沈黙が落ちた。
「ふざけるな、死ね!」
やがて我に返った静雄が真っ赤な顔で公園のごみ箱を投げる。
それを臨也はさっさと避けて、あははっと笑い声を上げた。
「ふざけてないよ。シズちゃんこっわーい」
「死ね!」
公園の公共物が次々と破壊されていく。池袋で有名な二人が、公園を走り回っていた。追いかけっこだ。
やがて臨也が公園から逃げ去って、はあはあと息をつく静雄に、セルティはぽん、と肩に手を置いた。
『大丈夫か、静雄』
「ああ…あいつうぜえ。ふざけやがって…」
『あれは本気じゃないのかな…』
セルティが躊躇いがちにそういうと、静雄は硬直する。
『いや、その…目が本気だった気がしてな』
「……」
かあぁぁぁぁっと静雄の顔が見る見ると真っ赤になっていった。
それを見てセルティは笑う。
ああ、なんだ。両思いなわけだな。
人間というのは本当に不思議だ。犬猿の仲と言っても好き合っているのだから。



100912 22:37
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