不思議






サイケがじっと見つめて来るのに、静雄は思わず目を反らした。
この人形は苦手だ。アンドロイド。自分が嫌いな奴と同じ顔。
「俺には好きなひとがいるんだけど、」
あろうことか声まで同じだ。そのうえ、人ならざる物なのに、『好きなひと』がいるとのたまう。
「静雄さんと同じ顔だよ」
サイケが続けた言葉に、静雄は舌打ちをした。
もう一体のアンドロイド。あっちは静雄と同じ顔をしている。名前は津軽。
サイケも津軽も静雄がこの世で一番大嫌いな男が作ったらしい。一体一体が目茶苦茶高額らしいが、それは静雄の知ったことではない。
「あいつが俺と同じ顔なのは当たり前だろ。お前らのマスターが俺に似せたんだから」
何のためにそんな事をしたのやら。静雄には分からないし、理解も出来ないだろう。
サイケがぐるんと振り返って、ソファーに眠る津軽を見た。津軽はずっと眠っている。寝息はないので死んでいるかのようだ。
「津軽も大好きだけど、静雄さんも好きだよ」
サイケがそう言うのに、静雄は黙り込んだ。
あいつと同じ顔で。好きだと言う声も同じで。
ああ、気持ち悪い。
静雄は目を手の平で覆い隠した。
サイケが首を傾ける。人間らしい仕草。
「静雄さん顔が赤い。どうしたの?」
「…なんでもねえよ」
赤い顔で否定の言葉を口にする静雄に、サイケはまた首を傾けた。
「シズちゃんは照れてるんだよねえ?」
後ろからサイケと全く同じ声がして、静雄は思わず舌打ちをする。その声はからかいを含んでいて、静雄は死にたくなった。
「照れてる?」
サイケがまたまた首を傾ける。理解できないようだ。
「津軽に同じ顔同じ声で好きなんて言われたら、俺もそうなるかも」
臨也は笑って後ろから静雄に抱き着いた。その細い腰に腕を回す。
静雄は低い声でなにやら悪態をつくが、臨也の好きにさせている。目許は赤い。
「シズちゃん、寝室に行こうか。サイケはここにいなさい」
臨也の言葉にサイケははい、と頷く。
静雄は臨也に手を引かれて出て行った。酷く赤い顔で。
「…人間って不思議だなあ」
どうしてマスターには静雄さんが考えている事が分かるんだろう?静雄さんは何も言っていないのに。
サイケは津軽の側に跪く。
「早く津軽起きないかな…聞いてみよう」
サイケが呟いたのと同時に、津軽の瞼がゆっくりと開いた。


100910 09:36
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