風の音が聴こえる








「帰るの」
「ああ」
「外、台風だよ」
臨也がこう言うと、静雄は黙り込んだ。
ワイシャツのボタンを止めながら、窓へと視線を移す。外の天気は一言で言えば、最悪だ。
「まだいなよ」
臨也はぽん、と先程まで寝ていたベッドを叩く。口角を吊り上げて。
静雄はそれを大層不機嫌に見遣り、大袈裟に舌打ちをした。
「帰る」
臨也から視線を反らしてさっさと衣服を着て行く。サングラスをかけて、髪を整えて。
「意地になんなくてもいいのに」
臨也はくっくっと笑った。そしてこう言う言葉が逆効果なことも知っていた。
案の定、静雄は機嫌を更に損ねたようで、臨也を睨みつける。しかし何も言わず、部屋から出ていこうとした。
臨也は内心溜息を吐く。困ったお姫様だな、と楽しげに笑いながら。
「シズちゃん」
手を掴むと温かかった。細い指。こんな華奢な手のどこにあんな力が出るのだろう。
「離せ」
「風の音が怖くて、」
臨也の手を振りほどこうとする静雄を、臨也は腰を引き寄せた。臨也の言葉に、静雄は眉を顰める。
「俺が怖いから、一緒に居てくれないかな?」
なんて言う臨也に、静雄は更に顔をしかめた。心なしか、頬が赤い。
「…子供かよ」
「うん。…おいで」
臨也はそのまま静雄を抱き寄せた。
静雄はハァ、と溜息を吐く。臨也の肩口に額を押し付け、諦めたように目を閉じた。
遠くで風の音が聴こえる。


100908 08:20
×
- ナノ -