テイクアウト







「しっかりしなよ、もう」
力が抜けた人間と言うのは重い。普段の彼ならば細身であったし、ある程度は抱き上げられる自信があったが、今の静雄はぐでんぐでんに酔っ払った重い荷物だ。
「静雄はお酒弱いからなぁ」
困ったような顔で言うのは、臨也と共に静雄を支えている新羅だ。臨也と新羅は両脇から、酔った静雄を引きずるように歩いている。
「ねみゅい…」
静雄は呂律も回っていない。ごしごしと目を擦る仕草はまるで子供だ。
「きっとこれ、明日覚えてないんだろうなあ」
新羅は苦笑する。前もそうだったから、と臨也に向かって。
「記憶がなくなるまで飲む馬鹿な奴が、本当に居るんだね」
臨也の方は辛辣だ。何故自分が天敵である平和島静雄を運んでやらねばならないのだろう。本来ならば道中に捨てて行きたい。
「一応僕ら未成年だしさ。見付かったらまずいし」
卒業しての初めての飲み会。たまたま静雄と新羅のクラスの飲み会終了時に、臨也が通り掛かってしまった。静雄の目が臨也を捉えるのを、新羅は内心面白がって見ていた。
始めは自販機でも投げられるかと警戒していた臨也だったが、予想に反して相手は突然抱き着いてきた。そしてそのままバタンと倒れる。全く、笑い話にもならない。
「いやあ、静雄が臨也に抱き着いた時はかなりびっくりしたよ」
「俺は心臓が止まるかと思ったよ」
酒臭い中に、静雄のシャンプーの香りがする。金の髪が視界でさらさら揺れた。
「まあどうせ静雄覚えてないだろうから」
新羅が笑って言うのに、臨也はぴたりと足を止めた。
「どうしたの?」
新羅が不思議な顔をする。
「ああ、そうか。そうだねえ…」
臨也はその端正な顔に意地の悪い笑みを浮かべた。新羅は少し嫌な予感がする。
「臨也?」
「後は俺が連れて行くから、新羅はもういいよ」
そう言って臨也は、静雄を抱き抱えた。
「ちょっと、静雄をどうする気なの?」
さすがに命が危険な目には遭わせられない。セルティにも怒られるし。新羅は眉を顰める。
「ホテルで介抱してあげるから」
臨也はそう言って、静雄を抱えたままホテル街の方へ歩いて行く。
「えっ。ホテルって…ええっ!?」
新羅は呆然と、静雄を連れていく臨也の背中を見送った。
「…介抱って、何する気なのさ…」
新羅は肩を竦める。
まあいいか。臨也が静雄の事を好きだなんてのはバレバレだったしね!


100907 16:33
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