死ね




腹を刺された。
血がどくどく出る。
手で押さえても血は止まらない。当たり前だ。
黒い衣服が血を吸って更に濃い色になる。
むせ返るような血の香り。足元も濡らしてゆく。
出血は早くしないと死に至るだろう。遠くて救急車のサイレンが聞こえる。間に合うんだろうか。
指先が冷えて、頭は霞みがかかったようにぼうっとする。
地面に蹲ると、はぁはぁ息が荒くなった。
不意に視界に影がさして見上げれば、バーテン服の男が立っていた。
彼は臨也をまるでゴミでも見るような目で見下ろし、口許を吊り上げる。
「やっと死んでくれるんだな」
「…嬉しいの、シズちゃん」
「嬉しい」
嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい!
静雄は笑顔のまま臨也の腹に手をやり、血をべっとりとその手につける。
そしてその血を舐めた。丹念に。
「不味い」
静雄はそう言って笑顔を歪めた。
あはははははははははっ
静雄の笑い声が響く。
ああ、これは夢なのだと臨也は気付いた。静雄はこんな笑い方をしない。
歪む視界の中、静雄は臨也の傍らにしゃがみ込むと口づけをした。血の味がする。
「早く死ね」
唇を離すと静雄はとても美しい笑みを浮かべ、そのまま消えた。


これは夢だろう?


臨也は完全に意識を手放した。



100820 07:20
×
- ナノ -