デート




「シーズちゃん」
後ろからそう声をかけられた。愉快そうな、人を馬鹿にしたこの喋り方。
静雄はこの少し高く間延びした声が大嫌いだった。嫌いすぎて直ぐ聞き分けることができる。例えどんな喧噪の中でも。
静雄はチッと、舌打ちをすると渋々と振り返った。
「臨也」
「珍しいね。シズちゃんと休日に会うなんて」
臨也はいつもの学ランではなく、真っ黒な半袖のパーカーを羽織っていた。私服も腹の中と同じような色が好きらしい。
一方静雄の方も体にフィットしたTシャツにジーンズといった私服だった。今日はこれから予定があったのだ。
「うるせえ話しかけんな、死ね」
「うわあ、会話する気全くなしだね」
大袈裟に嘆く振りを見せる臨也に背を向けて、静雄は歩き出す。左手に嵌めた腕時計を見て眉を顰めた。
「どこ行くの?」
「ついてくんな」
「まさかシズちゃんデート?」
「違う」
「新羅とデートなんでしょ?」
臨也がそう言うと、ピタっと静雄の足が止まった。くるっと振り返って大嫌いな奴の顔を視界に捉えた。
「デートじゃねえ。なんで知ってんだ」
「新羅は急患がいて、来れないそうだよ。はい」
臨也は静雄に小さな紙切れを差し出す。
訝しげにそれを受け取って中を見れば、
ごめんなさい。
と一言。
自身が来れなかったことに対してか、臨也が来たことに対してか。恐らく後者だろう。
はぁ、と溜息を吐いて静雄はそれを握り潰した。
「帰る」
臨也に背を向けて歩き出す。
「せっかくだし俺とデートしない?」
「うぜえ死ね」
「新羅とはするのに?」
ぴたりと静雄は立ち止まった。振り返った顔には青筋が浮かんでいる。
「あいつがセルティにプレゼント買うのに付き合えって言ったんだよ」
「ふうん。仲が宜しいことで」
「何だよ、その言い方」
静雄の機嫌が目に見えて悪くなっていく。もともと臨也に会ったことで90%は機嫌が下降していた。
「いや別に。それより俺とどっか行かない?」
「行かねえよ」
「甘い物とか奢るよ」
「……
静雄は黙り込む。
臨也はニィっと笑った。
「シズちゃんが好きな物を食べようか」
「…食いもんで釣るのか」
「そうだよ。いけない?」
臨也は悪びれずに肩を竦める。「シズちゃんとデートするにはそれしかないでしょ」
臨也の顔を暫く見つめ、やがて静雄は諦めたようにはぁ、と溜息を吐いた。
「ケーキバイキング行きたい。ホテルとかの」
「…胃薬買ってくるよ」
臨也は答えながら、ホテルは悪くないかもなぁ何て思ったりなんかした。


100819 06:23
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