溢れそうな。




ごぼっと水が体内に入って来る。
もがいて浮遊しようとするのに、頭を掴まれてまた沈まされた。
体中の酸素が出て行ってしまう気がする。暴れて何かを掴もうとしても、手は水を掻くだけだ。
ああ、もううざい。苦しい。
苦しくて苦しくて意識が遠退く。
死ぬのか、これで。こんなことで。
やっと。やっと死ねるんだろうか、自分は。
ナイフで刺されても、車に轢かれても死ななかった自分が。
抵抗を止め、力を抜いた途端に腕を引っ張られた。
プールサイドに転がされたのが分かったが、意識が朦朧として感覚がない。
頬を叩かれ、唇に何かが触れた。入って来る空気。人工呼吸だと認識するのに、暫く時間がかかった。
ごほっと水を吐き出す。けほけほと咳込んだ。目尻に涙が滲む。
うっすらと目を開ければ、赤い目が冷たく見下ろしていた。びしょ濡れで。
何で助けたのか分からない。殺すつもりだったろうに。明確な殺意は感じていた。
やっと。
やっと死ねると思ったのに。人間として。殺されて。
ああ、もう残念だ。
俺はまだ生きている。無様に這いつくばって。世界で一番大嫌いな男の前で転がって。なんて滑稽なんだろう。
「一人だけ先に死ぬなよ」
臨也の低い声が落ちてきた。



100817 21:21
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