ごきげんとり




粉々になった携帯を見付け、臨也は溜息を吐いた。
…まいったな。
これは相当怒っているらしい。
今から池袋に行ってご機嫌取りだ。
「はは」
笑いが込み上げる。
嫉妬だなんて可愛いじゃないかと思ってしまう。
つまり自分は相当いかれてるらしい、あの男に。
新しい携帯でも買ってやろうか。一番高いやつを。
臨也は駅まで歩くのももどかしく、タクシーを捕まえて飛び乗った。池袋まで、と告げる。
見付けたら何を言ってやろうか。この感じだと自販機くらいは飛んで来るだろう。覚悟しておかなくてはならない。
あれを絆して、毎回新宿まで連れて来るのは酷く苦労すると言うのに、失敗してしまった。
しかしそれさえも楽しいと思える自分が居て、本当に滑稽だ。
池袋駅で下りて、臨也は街を歩き出す。そう遠くに行っていない筈だ。人込みがどんなに酷くとも、彼はあの異質な空気でかなり目立つ。探せば見付けられる筈だ。どこにいても。
案の定、彼は60階通りを歩いていた。周囲が恐れと羨望な眼差しで自身を見ているのに、彼は気付かない。
「シズちゃん」
声をかければ、ぴくりと後ろ姿が揺れた。
ちっ、と大きな舌打ちがする。
臨也と静雄を見掛けた周囲の人々が、素早く退避して行く。
「臨也」
静雄がその目に怒りを宿して振り返った。


100817 13:31
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