死が二人を分かつまで




「シズちゃんさ、いい加減結婚とかしないの」
臨也はソファーに座って、目の前で煙草を吸う男を見た。
彼は臨也の言葉に怪訝そうに見返し、ゆっくりと煙を吐く。
「お互い様だろ」
「そうだねえ。もうすぐ三十路だしね」
臨也は僅かに笑った。人生の半分をこの目の前の男と過ごしてきたのだ。そう考えると長い。
「手前はしないのか」
「俺?」
「そう」
静雄は灰皿に煙草の灰を落とす。臨也の部屋のこの灰皿は、静雄専用だ。
「そろそろしようかなと思って」
「へえ。おめでとう」
「どうも」
沈黙が落ちた。
静雄は煙草を揉み消すと立ち上がる。
「帰る」
「シズちゃん」
臨也も一緒に立ち上がった。
ポケットからそれを取り出して、静雄に差し出す。
「あげる」
「?」
静雄は眉をひそめて受け取った。シルバーのリング。
静雄の目が見開かれる。
「結婚してよ」
臨也は真顔だ。
「それ、ペアリングだから」
そう言って自身の左手を見せた。薬指に同じもの。
「……いまさら?」
「今更」
臨也は笑って静雄の手を取った。左手の薬指に、それを嵌めてやる。
「似合ってるよ」
「……」
静雄は顔を赤くして、舌打ちをひとつ。
「誓いの言葉なんてないけど」
臨也は静雄を抱きしめた。「大事にするから
「…本当に今更だ」
静雄の言葉に、臨也は笑った。



100813 00:06
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