彼が監禁をしない理由


思いっきり鏡を殴りつけると、鏡が割れて向こうの壁にまで穴が空いた。
さすがに静雄の手も無事では済まず、血がだらりと洗面台に流れ落ちる。
どうせこの傷だって直ぐ塞がる。自分の体質に反吐が出る。
微妙に痛む右手を抱え、静雄はシャツを羽織る。白いシャツに真っ赤な血がついた。
「物に当たってもどうしようもないわよ」
音を聞きつけてやってきたあの男の助手が、呆れたように言う。
静雄は口端を吊り上げてそれに答え、後は何も言わずに部屋から出て行った。


「あーあ」
臨也は帰ってくるなり、その惨状を目にして苦笑する。全く目を離すと直ぐこれだ。
「あなたが片付けなさいよ」
「シズちゃんは?」
「とっくに出て行ったわよ」
私にあの猛獣を止められると思うの?
臨也は笑って鏡の欠片を手にした。それには血がべっとりとついていたが既に乾いている。
「また迎えに行かなくちゃ」
それに舌を這わせて血を舐め取ると、臨也はくぐもった笑い声を出す。嘲るようなその笑みは相手を思ってか、自分に対してか。
「不毛ね。そんなに欲しいなら監禁でもすればいいのに」
「監禁なんてしたら、アレじゃなくなるからね」
手に負えないのがいいんだよ。と笑うのに、波江は眉を顰める。
臨也はもう興味を無くしたかのように欠片を放り出すと、黒いコートを羽織って出て行った。

100725 22:25
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