風鈴






ちりんちりん。

風鈴の音がするのに臨也は顔を上げた。
新羅の家のベランダに、ガラスの風鈴が掛けてあった。
「ああ、それ?」
臨也の視線に気付いた新羅が笑う。「静雄が持ってきたんだよ。セルティにって」
「へえ」
臨也は無意識に眉を顰めた。
静雄の名前に嫌悪を覚えたからか、静雄とセルティの仲の良さに対する複雑な男心か、新羅には臨也の表情の理由は判断がつかない。
「別にセルティの為に持ってきたわけじゃないみたいだよ」
「俺は別に何も言っていないよ、新羅」
「うん。なんかね、誰かにあげようとしたら煩いから要らないって言われたんだって。だからセルティにやるよ、って」
新羅は笑って麦茶を飲んだ。からん、と氷の音がする。

「……」
「……」

二人の間に沈黙が落ち、ちりんちりんと風鈴の音だけが響く。
「帰る」
やがて臨也が立ち上がった。
「またね」
新羅はにこにことそれを見送る。
臨也は新羅のマンションを出ると慌てて携帯を取り出した。


「あげようと思っていた奴に風鈴とか好きか?って聞いたら、煩いから嫌だって言うから」
ムスッとした顔で静雄が新羅にそれを差し出した。
「セルティに?」
「あげてくれ。こう言うの好きそうだろ」
「誰かにあげるんじゃなかったの」
受け取りながら、静雄はこう言う素朴な物が好きなんだったなぁ、と新羅は思う。
「もういいんだ。気に入ってくれる奴に貰われた方がいいだろ」
そう言う静雄には不機嫌さと、ちょっと悲しそうな感情が見え隠れしていた。


風鈴がちりんちりんと音を立てる。
「風流だなぁ」
新羅はうっとりとそう言って麦茶をまた飲んだ。


100806 23:09
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