//俺は枕に顔をうずめて、深呼吸をした@碧井



頭の上で一纏めにされた手首が、臨也の手のひらの温度で汗をかく。
俺の手首を片手でまとめ上げる臨也の手は思ったより大きくて、力だってこの俺が痛みを感じる程度には強かったりする。いや、手首だけが痛くて熱いんじゃない。変な風に折り曲げられた体がいてえし、不自然におっぴろげられた股の辺りもいてえ。それよりなにより、繋がったとこ―――ここは痛いっつーより、今はただ、擦れるたびにひりひりして、焼けるみたく熱い。

ひっきりなしに漏れる変な声が癪で(そんな声をノミ蟲なんかに上げさせられてるっつーだけで不本意だ)、枕に顔を埋める。そうやって、なるだけ臨也の存在を意識の隅に追いやろうとしてるってのに、そこからだってお前の匂いしかしてこないことに驚愕して、思わず顔を上げる。
「なんて顔してんの」
ふ、と笑った臨也の前髪から、汗の粒が落ちた。

顔を上げると、いつだってお前と目が合う。
じっと俺を見下ろしてくる紅黒く光る瞳に見据えられると、息がつまって、動けなくなる。だってお前なんか必死だし、俺はお前が汗水垂らして何かを欲しがってるってのが珍しくて、ちょっと笑う。要領のいい手前が、そんな死にそうな顔して欲しがるのがよりによってこの俺だなんて、それが困ったことに嫌じゃない。

臨也の上気した頬から汗が伝って顎をなぞり、俺の頬に落ちてくる。
それを舌を伸ばして舐めとれば、臨也がなんでか悔しそうに舌打ちしやがった。
「―――あっ……、手前、おっきくすんな」
「自業自得だよ、シズちゃんのバカ」
バカってなんだよ、バカって。それが仮にもセックスする相手に言うセリフかよ、って悪態ついてやりたかったけど、だからってコイツが女口説く時みてえな甘ったるい言葉なんて聞きたくもねえから黙ってやった。

は、っは、と荒い息だけで快感をやり過ごしていると、臨也の顔がみるみるしかめっ面になる。怒ってるっつーより、拗ねたような、困ったようなガキっぽい顔だ。こいつは25にもなって、ちっとも高校生の時と変わらねえ顔してんだから嫌になる。
「ねえ……怒ってんの?」
「あ? 怒ってねえよ」
無視をしないで返してやったのは、なんだかんだ下半身繋がったままで喧嘩っつーのも落ち着かなかったからで、怒ってねえ訳じゃねえんだぞ、と俺は声にドスを効かせる。それっきりはもう何も喋ってやるもんかって、もう一度俺は枕を抱き寄せると顔を突っ伏した。
だけど。
「だったらさ、もっといい顔してよ。なんか、俺が無理やりやってるみたいで、嫌だ」
拗ねたように口を尖せて、そんなこと言われたらもう駄目だった。だって臨也のその言葉は、結構恥ずかしいそれで、俺と甘ったるい空気でセックスしたいって、つまり臨也はそう言ったのだ。意地を張ってる方が馬鹿みたいだ。
「もういい……」
舌を絡めて、深いキスを重ねると、呼吸が混ざり合う。ふう、っとお前の呼吸が、俺の中に入ってくると同時、体の奥にお前のが深く突き刺さって、俺の体が跳ねる。

シズちゃん―――何度も呼ばれる。お前の声で。濡れた吐息で。呼ばれた名前のくすぐったさに、背筋が震える。嬉しい。キモチイイ。チクショー。ムカツク。悔しいことに、手前が好きだ。

揺さぶられるまま揺さぶられて、弾けるだけ弾けて。何も残らないのに、笑えるほど必死に体を繋ぎ合う。首筋に噛み付いて、背中を引っかいて、もがいてもがいて。お前が欲しい。汗と精液が混じりあって、体が溶ける。シーツが湿って、枕に唾液が零れる。今夜、お前だけの匂いしかなかったこの枕に、俺の匂いが絡みつく。きっと朝には、このシーツにも。




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