//でもきみは、逃げない@ゆうこ



殺風景な部屋に夕暮れの日差しが眩しい。黒い服を纏ったシルエットは、オレンジの光の中で本当の影のように見えた。
時計もない部屋に、押し込められてもうどのくらい経つのだろう。臨也と池袋の路地裏で相対したときは、確かまだ昼時だったはずだ。数時間かそれとも日を跨いでいるのか、静雄には判断がつかない。もし数日経っているようなら会社に連絡を入れなければ。有給はまだ残っていただろうか。
「ちょっと」
とりとめもなく散らばっていた思考が中断される。反射的に視線を上げると、いつの間に移動したのか臨也がベッドの側まで来ていた。
「なんなの?随分余裕じゃないか。自分の置かれてる状況わかってるの」
表面には薄い笑みを貼り付けているのに臨也の声には苛立ちが滲んでいる。
「駄目じゃないか、こんなに簡単に捕まってちゃ。何されても文句は言えないよね」
静雄の身体を跨ぐようにベッドの上に臨也が乗り上げる。真上から身を屈めるように近づいた臨也の表情が、逆光で影になるのが気に入らなくて思わず手を伸ばす。自由にならない腕と金属の軋む音に我に返った。
両手足を拘束されている。身体を起こすことができないため全貌はわからないが、音から察するに恐らく金属製の鎖だろう。
耳障りに響いた音に反応するように臨也が呟く。
「残念でした」
(こんな鎖…)
静雄の力を持ってすれば断ち切ることはそう難しいことではないだろう。それがわからないほど臨也は馬鹿じゃない。
(惨めだ、こんなの)
一方的に与えることがあいつは得意だ。嘲笑も愛情も蔑みも情欲も、こっちに押し付けておいて自分は見ないふり。答えなんていらないと言ってどこかへ消え失せてしまう。鎖で繋いでいれば、静雄は臨也を拒めない。けれど同時に受容もできないということを、臨也は気付いているのだろうか。
臨也が何を期待しているのかが静雄にはわからなかった。そもそもそんなことを考えている自分が馬鹿馬鹿しくて吐き気がする。臨也の思惑を知ってどうするっていうんだ。どうでもいいだろそんなの。
こんな鎖とっとと断ち切ってぶん殴ればいい。なのにどうしてもそれができない。
雄の頭を抱える臨也の手に力がこもる。鎖のせいで、抱きしめ返すことすらできない。
大きく舌打ちをすると、臨也は楽しげに笑った。静雄が拒絶すればそれでこいつは安心するんだろう。侮蔑の言葉を吐き出すために静かに息を吸う。
とんだ茶番だ。




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