「お前の髪は風みたいだな」
艶やかな髪一房を指に絡め、豪炎寺がそっと呟いた。
風色と表現されたその人、首を傾げながら表した彼を見つめる。豪炎寺の黒い瞳が、至極真面目な様子で風丸を見つめ返した。
「風の色…?」
「ああ」
絡めていたそれを梳くようにして離し、柔らかく零れ落ちていく感触を楽しむその顔は、優しげだった。まるで愛おしいものを扱うような―――出来たら"まるで"じゃなければいい、と風丸は思う。
「お前が走ると髪がなびくだろう?それが風の流れに見えて…綺麗なんだ」
「なるほど。だから風の色か」
「ああ」
伝わったのが豪炎寺は嬉しそうにはにかんだ。それからまた、儚いものを触るように丁寧に浅葱色を掌の中に収めた。
「五月の…生えたばかりの草を揺らす風だ…」
「ははっ。今日のお前は随分詩的なんだな」
「…おかしいか?」
「いや」
風丸は満ち足りた笑みを浮かべ、僅かに寄っていた豪炎寺の眉間に、柔らかく唇を押し当てた。
一瞬の戯れ。けれど二人の頬は初々しい反応を示し、さっと朱に染まった。
「俺は風が好きだから…好きな人が俺を好きなモノに例えてくれるのはすごく嬉しい。…だから」
ありがとう。そう囁いて、栗色の瞳は穏やかに細められた。
「どういたしまして…と言ったらいいのか?」
「ああ。合ってると思うぞ」
少しだけ背けられた顔は、色味を隠すことが出来ておらず、照れを浮かび上がらせるその頬に、風丸は再度くちづけた。
豪炎寺の肩が、びくり、と跳ねる。拍子に開いた掌から、絹糸のような髪がさらさらと滑り落ちていった。
「それに…俺が風ならお前は炎だろ?炎は風がなかったら大きく燃え上がれない。
俺がお前を生かす…なんて、存在理由としては最高じゃないか」
強気な笑みを浮かべて、風丸は豪炎寺を抱き寄せた。自分に最も近いその場所に。
「…強すぎる風は、炎を消してしまうぞ?」
「大丈夫さ。それくらいの加減は出来る」
「……そうか」
それならば、とでも言うように、豪炎寺は彼の肩に額を乗せた。
煽られ、熱く熱く燃え盛る炎の揺らめきは、目に見えぬ風がソコにいる証になる。
言葉に出来ぬ想い―――見出した存在理由が、彼の口元を甘い微笑で色づけていた。
【風の名前】
END
これもはたちゃんへの捧げ。
炎を揺らめかせる風は火風と言うらしいです。属性的に豪風のことっぽいですね。風豪ですが。
11.01.15