少年の双眸が、私を見る。
グラウンドは既に夜の闇に飲まれようとしている。その闇を二つに引き裂くような鮮明さは、なるほど彗星だった。
私の服も白だったが、これほど明るくも真っ直ぐでもない。現に掴まれた腕の部分は波打っている。
少年が口を開いた。
「口で言っても本気にしてくれないのなら、行動で示します」
余った幼い手がタイを引いた。まるで黒い手綱だ。
「貴方はきっと愛や恋の力を小さいものだと考えている。けれど、それは間違いです。愛は、恋は、移ろいやすいけれど、だからこそ何よりも強い心なんです。父親も、母親も、子供も、勝利を掴む人も、夢を叶える人も、俺のサッカーも、貴方の憎しみも、愛がソコにあるからこんなにも強いんです。愛は、恋は、憎しみにも変わる。けれど憎しみを癒やすものもそれなんです。だから」
二つの彗星が、操られるがままに傾いだ私の目の前にまで来た。
「俺に、恋の魔法をかけさせてください」
確かそれはおおよそ魔法をとく際に用いられる行為ではなかったか。
それとも唇に触れたこの柔らかさこそがそれだとでも言うのか。
触れた瞬間に自然に閉じていた目蓋の裏が、チカチカと瞬いていた。眩しいものを、しかもこれほどまで近くで見つめるなどと――目映さに眩むなどという感覚は恐らく、五十年間は体験していないものに違いなかった。
嘯ルうき星の尾を掴む
12,7/21
ありきたりな台詞ですが、フィディオからKに伝えて欲しいもっともらしい『きれいごと』です。
フィディオには、Kにもっと綺麗な世界を見せてあげてもらいたいんです。