絵を描く時は息を止める。
 無呼吸でいるには、俺はしっかりと人間なので、そんなことは出来る訳が無く、だから、極力、という意味でだ。
 か細く、ささやかに、息を吸って、吐く。この姿を描くとすれば、自分は蜘蛛の糸のような物を口元に散らすだろう。
 恐らくはその場の空気というものを壊すことを嫌ってのこと。他の命を際立たせるために、己の気配を限りなく無に近づける。小さくして、引いて、だからこそ俺はマイナスの気質を持つのだろう。
 被写体を見据えて、その間に小さく呼吸、息を止めては筆を(炭をか?)走らせる。手を休める時には決まって苦しいと思う。けれどまた繰り返す。
 お前を見つめる時は、その時の感覚に似ているんだ。
 俺は夕食の残り香が混じった施設の陰鬱な酸素を、小さく吸い込んだ。


「カイ」


 灰色の壁を背景に、翡翠を思わせる髪が揺れ、振り向いた気弱そうな顔。まるで植物のようだ。意志の稀薄さを表したような小さな目に、いつかの俺はそんなこと思ったし、今も思い続けている。


「ああ、木屋か。何かあったのかい?」

「別に、何も」


 俺は小さく小さく、カイを揺らさないように、息を吐いた。
 ああ、やっぱり苦しいな。心臓はいつもより速く動くし、そのせいで身体の中の酸素はすぐに底をつく。
 けれど俺の呼吸は荒くならず、きょと、としているカイを、瞬きも少なく見つめている。描いているという訳でもないのに、だ。


「あっそ」

「たったのそれだけか?用も無いのに呼ぶなとか、言わなくてもいいのかよ」

「別に。何も無いよ」


  柔和に笑っての言葉は、気づいているのだろうか。さっき俺が言ったことそっくりそのままだ。
 これは推測だけどカイは気づいてる。それくらいこいつは頭がいいし、性格が悪い。
 俺は舌打ちするのを堪えて、息を止める。胸が苦しい。


「カイ」

「何?」

「何も」

「あっそ」

「カイ」

「……」

「カイ」


  用も無く呼び続けるのは、まだカイの目を見つめていたいからだ。
 それと。


「あ、シュウ…」

「カイ」


 見つめられていたいからだ。
 今正にシュウに向いた視線は呼んだだけでは戻って来なくて、頬に手を添えて壁に押しつけて、覆い被さった。
 シュウはこちらに気づいたが、笑みかそうじゃないのか分からない曖昧な表情をして、どこかへ消えた。
 息を止めて、俺はカイに向き直る。


「何?」

「――お前のせいで息が出来なくて苦しいんだ。だから、お前も」


 息を止めろ。そう言わんばかりにキスをした。
 カイは目を閉じずに俺を見るし、俺もそれを見ている。呼吸はしてない。
 ようやく同じになったな、笑った俺の目に、楽しそうに歪んだカイの目が映った。





嚼Sに君を描くこと、つまりそれが恋なのだろう








カイくんが好き。
見た目性格声にグッとキター!

12.5/11









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