※二期オレブン設定





 ぱしゃんという音が鳴った。その音の中心からじわじわと波紋は広がっていき、それが消える前に、また新しい音と波紋が派生する。
 不動が小石を投げる。音と波紋が生まれる。稀に人を振り返っては、ふてくされたように顔を歪める。また小石を投げる。
 さっきからこればかりを繰り返していた。

 飽きて来ないかと問われれば、もうとうに飽きていた。しかし不動は川に向かって石を放り続けた。
 そうでもしないと、このなんとも言えぬ感情が吐き出せそうになかったのだ。

 胸が気持ち悪ぃ。ああくそっ、めんどくせぇ。そう叫びたい気分は何かを壊したいような衝動を呼び覚ます。

 背後では"サッカーしようぜ"という熱い誘惑の元、各々が自分を鍛えている。なんで俺はこの場にいるのだろう?宇宙人退治のために手助けなんて、柄じゃないくせに。

 不動はまた小石を投げた。不動の投げた小石は水面に落ち、その静寂を壊す。何度も何度も。
 壊したくて堪らない。居心地の悪いこの立ち位置を、いっそキャラバンから抜け出してやろうか――不動が真に壊したいものは別の場所にある。それは彼自身が一番よく知っていた。
 知っていても壊すのには勇気がいるものだ。
人と人の間の壁なんてものは――。


「チッ……」


 憎々しげに舌を打った不動は、腕の振りを変えて石を投げた。
 偶々手にしてみればそれはいい感じに平べったく、水切りには丁度良さそうだったのだ。実際石は水を切っては遠くまで跳ねていく。
 パシャ、パシャ、パシャ、パシャン…。
 四回も跳ねた。


「おっ。すげーじゃん、不動」

「っ!?」


 急にほど近い頭上から落とされた声は、不動の肩を面白いくらいに跳ねさせた。どっどっどっと、有り得ない早さで暴れる心臓も落ち着かないうちに振り返ったのは、反射的な行動。
 見上げれば、いつの間に来たんだよ、とキレたくなるような近くにいた人物は、軽薄ともとれる優しい笑みを浮かべていた。


「お、ま…」

「あ。知ってるかも知んねえけど、一応自己紹介。俺土門飛鳥ね。よろしく」


 そう早口に言ったのは牽制のつもりなのだろう。失せろと言いかけた不動の口が、中途半端に開いて止まる。
 思惑通りにいった満足感からか土門は満面に笑い、驚いたことに自分の隣に陣取ったのだった。


「っ…てめぇ…いったい何考えてんだ?」


 声を数段落とし、眦をつり上げる。他をビビらせて来た凄みを見せつければ、こいつも逃げ出すだろう。思ったがその当ては外れ、そいつはその明るさを崩すことなくあっけらかんと答えを寄越して来た。


「何って別に?ただ一人でいんなーって見てただけ」

「見てんじゃねえよ!」

 恥ずかしさにがなった自分はひどく滑稽だった。けれど土門はそれを馬鹿にすることも、やはり怖がる素振りも見せない。
 あろうことか、


「警戒心丸出しで可愛いよな。野良猫みてぇ」


 そう言って頭を撫でだす始末。最早侮辱に近い馴れ馴れしさに、はあっ!?、と叫んだのと同時に頭に手が置かれたのだ。止める暇なんてなかった。


「テっメェ…っ!撫でんじゃねぇよ!つか何勝手に座ってんだ!」

「そんなに怒んなよ。別にここお前の場所じゃねぇんだし」

「っ…、うるせえっ!さっさと戻れよ」


 お前の場所じゃない。その言葉はまるで自分に向けられた拒絶のようで、実際にはそうじゃないのかもしれない、けれど自分に不満を持つ人間がいることは、誰に言われるまでもなく気がついている。
 胸が抉られたように痛い。なんでこんな痛みを味わわないといけない。不動は熱くなった目をつり上げ、土門を睨んだ。


「……なあ、不動。ここにいる奴らはお前を傷つけねえよ」

「……は…?」

「経験者のお節介。ここの奴らってさ、円堂がそうだからかみんな基本的にお人好しなんだよな。前が敵でもさ、一緒にサッカーボール蹴ったら友達、みたいな?だから一人でいることないんだよ」

「…………」


 口は開いているのに、言葉が出なかった。
言い返してやるつもりだったのに、そのために口を開けた、はずだ。
 しかしそこから漏れるのは、緊張した時のように早くなった呼吸、しかもそれはか細く震えていた。


「ほら、一緒に練習しに行こうぜ。またいつエイリア学園が来るかわかんねえだからよ」

「…………」

「……不動」


 手が温かいものに包まれた。何だ?と思った、けどどこか懐かしいとも思った――手を繋ぐ感触。
 無理に引っ張ることもしない、ただ手を握るだけでいる土門に、不動の呼吸は更に乱された。顔が熱くて、心臓の音が煩くて、裏腹に落ち着きもする。
 優しい温度。心地よい温度。


「……自分で歩く」


 震える舌で、脳で、なんとかそう言った。


「よっしゃ。じゃあ行こうぜ!」

「……ん」


 手を離されて、少しだけ訳のわからない物足りなさを感じたが、表情に出さず立ち上がり、とても嬉しそうに笑う土門とコートに向かう――と思った。


「土門っ」


 呼びかける声に顔を向ける。そして顔を見た瞬間、その声の持ち主と自分との間にある因縁的なものを思い、不動は顔を顰めた。


「は、じゃね…何だ、鬼道ー?」

「こっちでディフェンスの連携を確認する。お前も混ざれ」

「はいよー、っと」


 くる、と、今まで同じ方向を見ていた土門の視線が、不動に向けられる。
彼は今自分が浮かべた表情を自覚しているのだろうか?している訳ねえよな。肩を竦める不動の目には、ひどく嬉しそうな、可愛らしいとも言えるはにかんだ笑みが映る。


「俺あっちに混ざって来るけど、お前も行くか?」

「……ああ」


 頷けば、土門が進行方向を変えて歩き出した。それについて行く。
土門の肩の向こう側で、彼を呼んだ男がフォーメーションの指揮でもしているのかのように叫んでいた。
 青いマントが棚引く背中。
 そこに石を投げたくなったのは、それが水面と似ているからだ。一人納得しながら不動は、色濃い不機嫌さをその顔に浮かべたのだった。





END







不動受派が何故こうなったのか。



11.11/15











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