「一体どういうつもりだ、ギルガメッシュ」


名を呼ばれ、ソファーでふんぞりかえる男が視線を動かす。その先には無表情で佇む巨漢が居た。どうやら女神を風呂に入れ終わったらしい。


「何のことだ、綺礼」

「とぼけるな。おまえが拾ってきたあの小娘のことだ。あんなものを持ち帰ってどうする」

「さてな。おまえが思っている通り、あれは然程価値があるわけでもない。だが雑種に賜わせておくには少々勿体ない代物だ」

「………」


堂々と朝帰りをし、あまつさえあの女神を拾って来るという奇行をかました英雄王は悪怯れる様子もない。綺礼は不快感に眉を顰めた。そんな聖職者を見て王は嗤う。


「綺礼、おまえも見たであろう。あの汚物を始末する折、女神が放った攻撃を」

「…雷か」

「あれは逸品だったぞ。やはりあやつはまだ切り札を持って居た。我の予想通りだ」

「だがあのような力に及ばぬおまえではあるまい」

「無論。我の力に比べれば、あんな粗末な攻撃は屑同然だ。しかし問題はそこではない」

「なに…?」


ギルガメッシュは艶やかな金糸の髪をさらりと揺らして応える。


「あの力は中々面白い。我が宝物庫に加えてみるのも悪くはない」

「…それは、あの小娘が持っていた杖を奪えば良いのではないか。見たところ、あの力は杖に魔力を通わせることで放たれているようだったが」

「たわけ。杖だけ手に入れてもあの力は手に入らぬ。ケラウノス───ゼウスの雷霆は道具だけあっても選ばれた者しか扱えぬのだぞ。あれはあの小娘が戦神(アテナ)であるからこそ放てるものなのだ」

「………」


流石にそこまでわかって居なかった綺礼の目が僅かに見開かれる。


「では、どうするつもりだ。あの小娘ごと、宝物庫に放り込むのか」

「まあ、それも考えたのだがな。あれはあれでからかい甲斐がある。我が宝物庫に入れっぱなしにしては愉しめぬ。暫くは傍に置いておくことにした」

「……あれは相当なじゃじゃ馬女神だぞ。おまえの手に負えるのか、ギルガメッシュ」

「英雄王たる我を舐めるでないぞ、綺礼。なに、猛獣の調教は慣れておる。良い暇潰しになりそうだ」


嗜虐的な紅蓮が愉しそうに揺らめく。こうなった英雄王はもう止められない。身を以て知っている綺礼はそれ以上口を出そうとはしなかった。ギルガメッシュは笑みを浮かべたまま部屋を出ようと脚を進める。


「何処へ行く」

「休息を取るだけだ」


そう言いながらギルガメッシュは黄金の粒子となって掻き消える。部屋に訪れる静寂。
飼い犬に手を咬まれなければ良いが。
そう思いながら、綺礼はため息を吐いた。








「なんだ、つまらん」


霊体化して女神が居るであろう寝室まで来てみれば、そこにはベッドに潜り込み規則正しい寝息を立てる背中があるだけだった。風呂上がりの小娘をからかおうとわざわざ足を運んでやったというのに、何たる無礼だとひとりごちながらギルガメッシュはベッドに座る。簡素な寝具は少女の身体を抱いても尚スペースに余裕があった。


「…………」


解かれた細い髪が枕元に散らばっている。それを弄びながらギルガメッシュは少女の寝顔を眺める。


「………我が朋友よ」


今は亡き、生涯唯一の朋友。その面影が、この少女にはある。
神に創られし人形。その身はヒトでありながらヒト以上の力を持っていた者。それ故に創造した神共に殺された者。
この娘もまた、ヒトで在りながらそれ以上の力を持つというのなら。
かの朋友に似せて創られたのは、神々の悪戯かもしれない。


「……くだらん。寝る」


我ながら随分と夢見がちなことを考えたものだとギルガメッシュは自嘲する。半分程空っぽのベッドに入り込み、少女の隣に横たわる。相当疲れているのだろう、間近でその寝顔を覗いても女神は起きる気配がない。
霊体化して休むよりも、こちらの方が面白いことになりそうだ。
確信にも似た思いを抱きながら、ギルガメッシュは休息を取るべく瞼を閉じた。

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