「ときに綺礼、」


まだ真新しさを残す蝋燭の火が揺れる。罰せらるべき悪徳を肯定し、己が師を手にかけることさえも愉悦とする王の甘言に戸惑う綺礼と、それを嗤うギルガメッシュ。その沈黙を破ったのは黄金のサーヴァントの方だった。


「…なんだ」

「あの小娘をどう思う?」


ギルガメッシュが指す人物が誰であるか一瞬俊準した綺礼であったが、すぐに察したようで溜め息混じりに言葉を返す。


「あの『勝利の女神』のことか。別段、なにも思わないが」

「ほう?」

「あれはただの補助装置だ。聖杯戦争の勝敗に関わる重要な人物ではない」


大体、あの小娘はサーヴァントに加護を与えるだけのアイテムだ。調書に沿った見解を答えた綺礼をギルガメッシュはまた嗤う。


「解っておらぬな、綺礼。あれはただの道具ではないぞ」

「…なに?」

「あれは曲がりなりにも神性を持っている。…まあ、大部分が人間だが」

「それがどうしたと云うのだ」

「ふん、我の言いたいことがわからぬか」


鼻を鳴らしてふんぞりかえる英雄王を聖職者は睨む。


「神性を持っている者にただ者は居らぬ。我やライダーが良い例だ」

「おまえたちはサーヴァントではないか。あの小娘とは違う」

「あれも人間とはまた違うぞ」

「身体に聖遺物を埋め込まれただけの小娘に過ぎんよ」

「あやつはそれを完全に取り込んで居る。でなければ神性など纏わぬ」

「……それがどうしたと云うのだ。あれが出来るのは加護のみ。後方支援しか出来ぬ無力な小娘だ」

「否、」


弄んでいたチェスの駒を盤に置いて英雄王はかく語る。


「女神の力はそれだけではないぞ」

「…何故そう言える」

「直感だ。神性を持つ者の力が、あれだけの筈がなかろうよ」

「だが大部分が人間なのだろう?」

「綺礼。ヒトの身でありながら、ヒト以上の力を持つ者を侮るなよ?」


真紅の瞳を細めてそれに似た色のワインを揺らすギルガメッシュ。綺礼は眉を寄せる。


「ギルガメッシュ。何故そこまであの小娘を庇う?あれの何処におまえを惹きつけるものがある?」


綺礼から見ればただの人間しか見えない小娘に、この英雄王が興味を持つ等理解できなかった。それを聞いたギルガメッシュは愉快そうに唇を歪める。


「あのような不相応な存在にひとり、心当たりがあってな。それと同じ匂いがするのだ」

「…そんな曖昧な直感で興味を持ったと云うのか?」

「曖昧、か。確かにそうかもしれぬ。だが、あやつの持つ力に気付かぬ我ではない。あれはただの補助装置ではないぞ、綺礼」

「…つまり、どういうことだ」

「加護だけが女神の仕事ではあるまいよ。聖杯戦争とやらに関わるのなら、尚更に」

「……あの小娘に何か特別な力があるとでも?」

「さあな。まあ、無いとは言い切れんだろう」


くくっと笑い声を漏らしてギルガメッシュはワインを呷った。
弦切楪。聖杯戦争に影響を与えぬただの小娘だと思っていたが…どうやらこの英雄王にとっては違うらしい。彼は何かに気付いている。それが何かは綺礼には解らない。


「思い出してもみよ。あれが我の武器を“消した”時のことを」

「………」


言われた通り、アサシンの目を通じて見た光景を脳裏で蘇らせる。英雄王の王の財宝(ゲートオブバビロン)から放たれた武器を、片手で消した女神。それが指し示すものは。


「…確かに女神の能力である絶対神盾(アイギス)は、おまえたちサーヴァントや魔術師にとっては脅威かもしれん。だが私には関係のないことだ」

「論点はそこではない。綺礼よ、わからぬか?盾があるなら、矛だって存在してもおかしくはないだろうよ」

「………つまり、女神には攻撃手段もある、と?」

「然り。それが何なのかまでは解りかねるが…生半可な攻撃ではないことは確かだ」

「…………」

「そもそも、貴様らの見解こそが間違っているのだ。あれは補助装置等ではない。それ以上の影響を、この聖杯戦争に及ぼすモノだ」

「な……」


予想もしていなかったギルガメッシュの言葉に綺礼は考え込む。攻撃手段を持ち、加護という補助装置的立ち位置から外れた女神。果たして、それを今でも『脅威ではない』と言い切れるのか。


「精々あれから目を離さぬことだな。女神にしては色気がないが、中々に気概がある」

「………」


飄々と言い放つギルガメッシュと、険しい顔をした綺礼。相対的な感情を持ちながらも、二人の興味はひとりの少女へと向けられていた。
部屋を照らす蝋燭は、不穏な音をたてて燃え続ける。

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