「……なんすかこれ」


部屋の真中にぼてっと落ちてるでっかいきらきらした塊を見つめながら言葉を発する。
その謎の物体の前に立っていたケイネスさんは顔色ひとつ変えずにこたえる。


「月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)だが?」

「…いや、だが?って言われても」


全然わかんねえ。
ていうかこれどうみても巨大な水銀ですよね。


「……水銀ですよね」

「ただの水銀ではない。水と風、ふたつの属性に共通する流体操作術式をベースに、私の魔力を充填して意のままに操ることが出来る魔術礼装だ。自在に形態を変化させ、攻撃・防御・索敵を可能とする簡易ゴーレムの一種で、自律防御も可能なのだぞ」

「仰ってることの半分以上がよくわかりませんけど、とりあえずすごい水銀ってことですよね」


そんな自慢げに語られても、こちとら魔術の基礎もわからない素人なのだ。簡単にまとめたわたしを睨みつけながら鼻を鳴らすケイネスさんはめっちゃ怖い。


「フン…そんなに拝みたいのならば見せてやろう。このケイネス・エルメロイ・アーチボルトの実力をその眼で見届けるが良い!」


そう叫ぶや否やケイネスさんは水銀に向かって手を翳す。


「Scalp!」

「ぎゃっ!」


掛け声と共にもちっとしていた水銀から突如鋭い切っ先が出て近くに在った観葉植物を真っ二つにした。
あまりにも一瞬の出来事で何が起こったか理解するのに時間を要する。


「……い、いまのは」

「私の月霊髄液がやったことだ」

「わーお…」


すげえ、魔術すげえ。
感心するわたしを見てケイネスさんはにやりと微笑む。


「何処ぞの英霊よりは役に立つ」

「うわひど…」

「何を言う。正論だろうが」


悪びれもせずにそんなことを言ってのけるケイネスさん。魔術はすごいけど魔術師は人間的にどうかとおもった。でもこの水銀ちゃんがすごいのは事実である。


「水銀ちゃんとランサーが強力したら最強ですよね」

「なんだその呼び名は。協力等出来る訳がなかろう。奴の宝具は魔力を削ぐのだぞ」

「あ。そうだった」


そっか、魔力削がれたらこの水銀ちゃんは動けなくなっちゃうのか。なんか可哀相だ。


「…でも」


見てみたい、とおもった。
ケイネスさんとランサーが共に闘う姿を。
特に理由はないけれど。強いて言うならば。


「共闘したら、ちょっとはケイネスさんのこと見直すかも」

「…一体私はきみの中でいまどんな評価なのか気になるところだな」

「えっと…自己顕示欲の強いエリート魔術師」

「楪、少しは遠慮をしてモノを云いたまえ」


あ、しまった。おもわず本音が。起源損ねたら水銀ちゃんで切り裂かれる。
慌てて口を押さえるわたしをみて彼は呆れたように溜息を吐いた。


「全く……そういうところまで、きみはおばあさんにそっくりだな」

「…ありがとうございます?」

「素直に礼を言え」

「ぎゃー!」


水銀ちゃんがこっちに近寄ってきた。ケイネスさんと一緒に。
思わず身構えるが、よく見ると水銀ちゃんが割と可愛いことに気付いた。


「…ケイネスさん」

「なんだ」

「この水銀ちゃん可愛いですね。ぷにぷにしてそう」

「触って確かめてみてはどうかね」

「えっ良いんですか」

「ああ。直接触ると有毒だがな」

「全然良くねえ!!」


ふっと意地悪く笑ってケイネスさんはわたしをみおろした。
やべえ、殴りてえ。


「いつか土下座させてやる…」

「そういうことは本人の前で言うことではない」

「やだなあ嘘に決まってるじゃないですかあ」

「わざとらしい」

「ケイネスさん同じクラスに居たら絶対友達にならねえ」

「もとよりきみに友人など居るのか」

「余計なお世話だー!!」


このあとランサーに泣きついたのは言うまでもない。
いつか一泡ふかせてやる。絶対にだ。

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