仕事が終わり家に帰る途中、いつもの様にコンビニに立ち寄りビールを手にして本日の酒の肴を見定める。今日は炙り明太子にでもしようかな。手に取りレジへ行こうとした時、何気なくデザートの棚に目がいく。
今日が何の日か忘れてた、なんてそんな言い訳はしない。この日の為に町はきらびやかに彩られ陽気な音楽が永遠とリピートしている。どこへ行ってもイルミネーションが点灯していて目が疲れる。毎日通うこのコンビニのデザートの棚もケーキで埋め尽くされていた。ビールには合わないけど、たまにケーキもいいか。いかにもお一人仕様にカットされたショートケーキに手を伸ばした。

「うっわ、もしかしてこんな聖夜に寂しくシングルベルですか?」

いつの間にか背後にいた銀時が憎たらしく私を見下ろしていた。既に買い物は終わっている様で、薄いビニール袋が透けて卑猥な表紙がくっきりと浮かび上がっている。

「…そういうあんたもこんな聖夜にエロ本で寂しくチングルベルですか?」
「俺は無宗教だ、クリスマスなんて興味ねぇよ。俺が興味あんのはクリト」
「言わせねーよ!」

お互いイイ年してクリスマスには縁が無いとは何とも悲しい事だろう。神楽ちゃんは志村家でパーティだそうで、銀時も一緒に行けばよかったのにと言うと「若者の中でオッサンひとりでレッツパーリィはキツイ」との事だ。確かに。

「…そのケーキ買うのか?」
「ん、まぁクリスマスだし。ケーキくらい食べとこうかなって」
「ふぅん」
「銀時はケーキ食べたの?」
「まぁな」

こいつならケーキなんて今日に限った事じゃないか。
再びショートケーキに手を伸ばしたががケーキを掴むより、銀時が私の腕を掴む方が早かった。

「え、なに?」
「…ケーキならうちにあるけど」
「は、」
「神楽いないの忘れてデケェの作っちゃったからよ、だから…」
「だから?」
「…うちに、来れば。名前が」

ケーキなんて明日神楽ちゃんが帰って来たら食べてもらえばいいのに。なんて意地悪く思ったりもしてみたけれど、少し伏目がちにしている銀時が照れている事はお見通しでそんな私もケーキなんて大した食べたいわけでも無いのだけれど、お互い寂しい聖夜から抜け出すにはケーキを口実にしても許されると思う。

「ケーキ、腐ったら勿体ねぇしな」
「そーだね。それに今日は特別疲れたから甘い物食べたい気分だったっていうか…」
「それは丁度良かったな…あ、酒飲むなら今日泊まってくか?」
「えっ」
「いや、勘違いしないでよね?別にクリスマスだからって何するわけじゃないんだから!別に泊まらなくても良いけど、今日寒いし?酔ったまま帰すのも何だし…」
「あ〜…うん、じゃ泊まって行こうかな…?」
「えっまじでか」

銀時は駆け足で私の前から消えたと思えばレジ前で慌ただしくしていて、そこから聞こえたのは

「さっきここで買ったやつ返品したいんですけど!そんでその金でコレ買いたいんですけど!」

先程ぶら下げていたエロ本。そしてコンドームが台の上に置かれていた。
こんなムードもクソも無いはずなのに不思議と胸が高鳴るのはきっと今日がクリスマスだから。