帰り道に雑貨屋に立ち寄り、ピアスコーナーを見てみると目が疲れそうなくらい沢山の種類が並んでいた。
「これがピアッサー…」
要するにホチキスみたいな感じなのかな…バチンと挟むとピアスが埋め込まれる的な。針がむき出しになっていて恐怖感が煽られる。やっぱり止めようかな、と思った時黒いシンプルなピアスが視界に入る。
そういえば、高杉くんも黒いピアスをつけているのをよく見る。高杉くんも初めてあける時は緊張してドキドキしたのかな、そうだとしたら可愛いのになぁ
「何にやけてんだ」
噂をすれば、そこには高杉くん。今日もいちいち格好良い彼の耳には黒いピアスが煌めいていた。
「あけんの?」
「うん、でもこんなにあったら迷っちゃうね。何かおすすめある?」
「ピアッサーはホール安定するまで時間かかるから勧めないけど」
「え、これ以外でどうやってあけるの」
「安ピンとか、画鋲とか」
「うわぁ…」
まさかの選択肢に、臆病な私は想像だけでも身震いしてしまう。
高杉くんは私が持っていたピアッサーを取り上げて棚に戻す。
「俺があけてやろうか」
ピアッサー、安全ピン、画鋲、高杉くん。私が選んだのは高杉くん一択。
驚くほど簡単に高杉くんの家へと来てしまった。こんな時に「出会って○秒で合体」系のアダルトビデオを思い浮かべてしまう。だって高杉くんとちゃんと話したのは今日が初めてだから。
部屋に入ると大きめのベッドが幅を取っていた印象で、ソファはなく高杉くんは当たり前のようにベッドに座っていた。私が隣に座ったら慣れてる軽い女だと思われるんじゃないか…という不安を全く気にもせず高杉くんはこっちに来いとベッドをバフバフ叩く。
隣に座ると彼の細い指が、私の耳に触れる
「幸薄そうな耳たぶ」
彼の視線が私を捕えていて、一気に顔も耳も熱が伝わるのが自分でもわかる。
高杉くんの評判はあまり良くない。一部の女子には良いけれど、ちなみに一部の女子の中には私が含まれている。高杉くんが好き。高杉くんになら安全ピンだろうが画鋲だろうが釘だろうが…何をブチ込まれても本望だと思っている。
「じゃ始めるか」
机から色々道具を乱雑に取り出し、そしてまたベッドに戻ってきて再び私の耳に触れる。薄いから冷やさなくていいか面倒だし、と呟いた。コットンに消毒液を染み込ませ、私の耳たぶを擦る。ひんやりとした感覚が気持ちいい。
「開けたい場所とかこだわりあんの」
「え、いや特に…高杉くんにまかせるよ」
「俺が決めていいのかよ」
「うん。高杉くんに決めて欲しい」
私にしてみればかなり大胆な言葉も高杉くんは気に止めること無く、私の耳たぶにペンで印をつけていた。すぐそこにいる高杉くんからいい匂いがする。私もちゃんと香水つけてくればよかった…と後悔した。
「動くなよ」
小さく包装された袋を開けると太い針のようなものが出てきた。
「それ、なに?」
「ニードル。これであける」
「…痛そう」
「かもな」
高杉くんが笑った。
初めて笑いかけてくれたのが私の恐怖に歪んだ顔に。だなんて、やっぱり高杉くんは普通の神経じゃないな…と思いながらもその笑顔もまた堪らなく好き。
痛みは一瞬では終わらない。
耳に触れる鋭利な先端がプツリと体内に入っていくのが感じられた。その違和感に「ん」と小さく声が漏れて、高杉くんと目が合う。
最初はちくりと痛み、じわじわと増していく熱が耳全体に感じる。まだ終わらないのかな、と再び高杉くんの方を見ると何やら真剣な表情だったので、ただ黙るしかなかった。
初めてだからよくわからないけど。これが故意に時間をかけているとすれば彼の性癖は相当歪んでるなぁ、なんて思っていた。反射的に涙が眼尻に溜まっていく。
「出来たぞ」
熱を持つ耳に触れると確かにピアスが埋め込まれていた。
「あ、ピアス…」
「ファーストピアス。それはホールが安定するまでしばらくつけてるヤツ」
「ごめん、私知らなくて。これ高杉くんのだよね?」
「買ったけどつけてなかったから苗字にやるよ」
「いいの?ありがとう…」
ホールが安定しても一生つけていきたい…!高杉くんからもらったピアスだから。
どんなデザインなのかな、そう思い鏡を覗くと。私の薄くて貧相な耳に見覚えがある黒いピアスが煌めいていた。
「これって」
「お揃い」
私が言葉を発する前に、先に言われてしまう。
「でもこれじゃ勘違いされちゃうよ…?」
「別に俺はいいけど」
「えっ、え?えっと、私も全然いいんだけど…むしろそっちの方がいいって言うか、」
「じゃあ外すなよ、そのピアス」
「はいぃ」
あまりの驚きに気の抜けた声で返事をしてしまった。
「次は軟骨にでもあけるか」
「うわぁ、それはまだいいかな…それこそもっと痛そうだし」
「耳に刺した時の、痛がってる苗字の顔と声すげぇ良かった」
「それヤバイよ高杉くん。変態への第一歩」
「苗字のせいだな。責任とれよ」
「それはどーいう事でしょうか…」
ふわりと、また高杉くんのいい匂い。と同時に高杉くんと私の唇が重なった。
「こう言う事だ」
そう言った高杉くんの表情が余裕に満ちていたので、こう言う事ってどういう事ですか。と永遠と反論したくなった。けど、彼の気が変わらないうちに今度は私からキスをした。
ピアスホールが完成する前に、私自身が高杉くんに貫通させられそうだ。
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