ひとりですまいるに行くと追い出されるから一緒に来てくれないか。と近藤さんに頭を下げられては俺も断れない。
一応だが、土方さんに頼めばいいんじゃないですか。と聞いたが、それは既に実証済みらしい。

「あいつが隣にいると俺の人気が下がる…」

と、近藤さんが悔しげな表情を浮かべていた。あんた元々人気なんて持ち合わせてないでしょーや、と出かかった言葉は飲み込むことにした。

女と酒を酌み交わすなんて、理解し難い。どうせ奴らはこっちの話に「えーそうなんですか」と適当に相槌をするだけで、少しでも触れようものなら「ここ、そういう店じゃないんで」と不機嫌になりやがる。
それなら最初から遊郭に出向いた方が時間も金も無駄にならない。と俺は思う。

こんな愛情とは程遠い扱いを受けても、よく足繁く通うな…近藤さん。いつのまにかバナナの盛り合わせがテーブルいっぱいに並べられていて、まさにその姿はゴリラ以外何者でもない。

「あの、沖田さん」

隣に座っているホステスが俺の名前を呼ぶ。この店には仕事以外来たことないはずだが、何で名前知ってんだこの女。
表情を変えることなく視線を移すと、その女は俺にこう言った。






「私を沖田さんの、雌豚にして下さいって」

隣に座って朝食をかきこんでいる土方が、盛大に味噌汁を吹き出していた。

「イカれてんな、その女」
「でしょうね、しかも」

「沖田さんの言う事ヤる事何でもします。私はMです。フィストでもスカルでも何でもやります。って言われやした」
「何だ?そのフィストとスカルって」
「フィストは拳、スカルはアタマ。どっちも膣か肛門に入れるSMプレイでさァ」
「げ…飯食ってんのにお前よくそんな話できんな」
「飯って、その犬のエサのことですか」

気味の悪そうな顔をしてる土方だが、お前の食ってる油まみれのソレの方が断然気持ち悪い。

「まぁ、お似合いなんじゃねぇの…そのドM女と」
「俺はそんな慣れたガバガバ拡張女より、わりと普通の女を雌豚調教していきたい派なんですよね」
「誰もお前の好みなんて聞いてねーよ」

溜め息を漏らした後に土方は半分くらい朝食を残して、俺の隣から去っていく。期待はしてないがやはりあいつの助言はまるで役にたたない。さて、どうしたものか。
正直、俺のドぎついSMプレイに最後まで耐えられる女は誰一人いない。そのせいか、この界隈の風俗店じゃ俺は出禁をくらっていて、わざわざ吉原まで出向かなきゃならない。そんな面倒な事をしなくても、あの女がいれば…と欲が湧きあがる。

「昨日は助かった、礼を言うぞ。総悟」
「近藤さん」

土方さんと入れ代わるように近藤さんが俺の隣に座る。

「そういえば昨日、名前ちゃんと何かあった?」
「名前?」
「あれ、名前聞いてなかったのか?お前の隣にいた子だよ」
「ああ…あいつ名前っていうんですか」
「源氏名か本名かわからんがな」

お前もそろそろ、そういう年頃だろ…と少し照れながら微笑んでいる近藤さん。この人はいつまで俺を童貞だと思っているんだか…

「実は前々から、名前ちゃんがお前に想いを寄せているらしくてな」
「俺は昨日初めて見ましたけど」
「まぁそう言うな。いい娘だぞ名前ちゃん。お妙さんの次にな!」
「いい娘、ねぇ」

好きな人との初めての会話が性奴隷にして下さい。だなんてどう考えてもいい娘とは程遠い気がする。俺にとっては都合がいいが、どんな神経の持ち主だ。と名前の事ばかり気になっていた。

「沖田さん…ご指名ありがとうございます」

その夜、俺はあの女の策略に溺れるようにひとりですまいるに行き、名前を指名する。

「あの、昨日はいきなりあんな事言って…すみません」
「お前、俺の事好きなんだって?バカくせェ、いきなり雌豚にしてくれだなんて流石にひくわ」
「ですよね、ごめんなさい」
「頭おかしいんじゃねーの。気持ち悪い」
「…」
「俺以外の奴ならそう思うぜ」
「え、」

俺の言葉にいちいち反応して目まぐるしく変わる表情が堪らなく楽しい。
別に派手でもなく地味でもない。いたって普通な感じなくせにマゾヒズムに覆われているんだなんて。女は怖い、と思う。言動からして既にどっちの穴もガバガバなのだろう。ある程度開発済みの豚にはあまり興味はないはずなのに、何故か汚れを感じさせないこいつが気になって仕方ない。

「私、以前お仕事でここに来られた沖田さんに一目惚れしてしまいました」
「へぇ」
「それで、近藤さんとか。お妙さんのご友人とか、色々アドバイス頂いて…」
「姐さんの友人?」
「万事屋さん、だったかな。すごい親身になってくれて、そこで沖田さんはSMハードプレイがお好きと聞きまして」
「…旦那か。間違った情報でもねーけどな」
「なので、私も少し勉強したので知識だけなら身につけたつもりです!」

読んだ5分後からすぐに出来るSM入門プレイガイド、と書いた本をどこからともなく俺の目の前に出す。沖田さんは何の道具が好きなんですか?と真顔で聞いてくるあたり、やはりこの女はイカれているようだ。そして、そんな女に惹かれている俺も相当だ。

「お前、本当の名前なんて言うんだ」
「本名も名前です」
「なァ、名前」
「何でしょうか」
「俺は、名前を雌豚には出来ねーや」
「…そうですか」

「玩具くらいになら、してやってもいい」
「おもちゃ…?」
「壊れない程度に遊んでやるよ」
「え、ってことは」
「今日から俺の玩具になれ」
「…喜んで!」

泣いて喜ぶ名前に、どっちかにしろ鬱陶しい。と言うと涙を止めて笑ってやがる。
昔、姉上に言われた言葉を思い出した。
おもちゃは、大事に扱いなさい。と、