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 サッカー部の部室内にあるミーティングルームに呼び出された面々は、何だどうしたどういうことだと困惑していた。理由も告げられずの召集に、余程切迫した何かがあるだろうということだけは判るのだが、その何かに全く見当がつかない。何があったのか、どうすべきなのか。集まった誰も彼もが、互いの顔を見やって眉を下げていた。
 そんな空気の中、全員が集まったことを確認した鬼道は、静かに口を開いた。

「突然すまなかったな。一刻も早く情報が欲しい状況なんだが、お前たちを一人ひとり当たっていては時間がかかるから、こうして召集をかけた次第だ」
「どういうことだ。何があった?」
「……万丈、大野。お前たちが見聞きしたことを全て話せ」
「おう。俺と万丈、五限の授業が少し早く終わったから、他よりも先に教室の移動を始めてたんだ。そしたら、廊下の踊り場に咲山が居て、誰かと電話してたんだよ」
「最初は静かな感じだったけど、途中から突然怒鳴り出したんですよ。「なんでそいつが」とか、そんなことを言い合ってて。……それで、電話を切ったかと思ったら、壁殴って突然走り出してって感じで……」
「それじゃあまるで呼び出しじゃないか」

 佐久間の驚いたような声に、万丈は「まるで、じゃなくてマジで、って感じだけど」と付け足した。仮に呼び出しだとして、では相手は誰なのか。二人の言うことが正しければ、切羽詰った様子からして女子ではないだろう。この学園の誰かということなら、以前まで部員であった上級生たちやサッカー部を快く思わない者など、目ぼしい存在は居なくもないが、それならばわざわざ電話で呼び出すことはしないだろう。そもそも、そう簡単に個人の携帯電話の番号を入手できるとも思えない。そうなると、自然と学園外部の存在が浮上するのだが、そこまで含めるとなれば特定はほぼ不可能である。外部との交友関係など完全に把握しているわけもないし、特に部員たちとの交流がそう多くない咲山は、自身の情報をあまり落としていない。故に、咲山の行き先を予想することは困難に近かった。
 と、何かに気づいた寺門が、胸騒ぎを覚えたような曖昧な表情を浮かべながら万丈に尋ねた。

「ちょっと待て。万丈、咲山は確かに「なんでそいつが」と言ったんだな?」
「ああ。予想してない奴が居たみたいな感じだった。兎に角驚いてて、そこからだな、咲山の口調が怒鳴り出したの」
「……少しばかり、悪い仮説を話してもいいか」
「何だよ、もったいぶってる時間なんてないだろ。さっさと言えって」
「……咲山を呼び出した相手が、辺見を人質に取っている可能性は、ないのか」
「っ!?」

 ルーム内に驚愕が走った。あくまで寺門の憶測だと、試しに佐久間が辺見宛てに携帯電話を鳴らしてみると、電源が切られているというアナウンスが流れた。辺見が故意に電源を切っているということは考えにくい。充電が切れているというのであれば本人の過失ということで済ませてもいいのだが、状況が状況だ、そんな疑念が生まれてしまった今、電池切れだなどという短絡的な帰結で良しとする気にはなれなかった。次いで鬼道が咲山の番号を鳴らしてみるも、コール音が続くばかりでやはり繋がらない。行き先に向かっているため気がついていないのか、電話に出る余裕もない状態なのか定かではないが、やはり本人から情報を聞き出すことはできそうにない。尤も、繋がったところで、咲山が素直に吐くとも思えないのだが。兎角、電話が繋がらないことで、辺見が咲山に関する何かに巻き込まれている可能性がひとつ高まってしまったのは確かだった。それまで辺見の不在と咲山の焦燥に繋がりなどないと思っていたのに、ここに来て双方が全く無関係であるとは言い難くなってしまったのだ。

「この中で、咲山の行き先に心当たりがある者は居るか」

 鬼道が問うも、皆無言だった。それもそうだ、この中で咲山と親しく付き合っていた者は少ない。精々が、ペアを組んだり積極的に反省会などに誘っていた辺見、誰かとの間を取り持っていた源田、必要事項を連絡していた鬼道ぐらいだ。他は殆ど横ばいで、ともすれば連絡先すら知らないメンバーも居る。内部から当たりをつける方法はないと思っていいだろう。

「万丈、大野。他に咲山は何か喋っていなかったか? 何でもいい、思い出してくれ」
「キレ出してからはずっと怒鳴ってたから、細かいところまでは……」
「何か言ってた気はするが、なんだったか……ああそうだ!」

 先程の光景を音声と併せて回想していた二人だが、やがて大野がはっとしたように頭を上げた。

「確か、「ナバタ」って言ってたな」
「ナバタ?」
「それなら俺も聞いた。漢字なのかカタカナなのか、平仮名なのかまではわからない」
「何のことだろうな。場所か? それとも何かの建物の略称? 聞いた覚えがないな」
「……クク、ナバタ、というと、恐らくあれでしょうねぇ」

 突然出てきた謎のワードに首を傾げていると、それまで端で話を聞いていた五条が笑みを零しながら意味ありげに呟いた。必然、周囲の視線が一気に彼へと向けられる。期待と疑いの入り混じった視線たちを受けているにもかかわらず、しかしそれらを全く意に介していないかのように、平然とした態度で眼鏡のブリッジを持ち上げてみせた五条は、誰に言われるでもなく続きを語り出した。

「ご存知ありませんか? 此処から少し離れたところ……主に市街地から外れた場所に、大きな倉庫が幾つか、疎らに建っているんですよ。あれらはまとめて「ナバタ倉庫」と呼称されているようで、地域ごとに区分された英数字を当てはめて管理されているんです。私たちが子供の頃にはもうあったようですよ? 一ヶ所にではなく、方々に幾つかずつといった不思議な具合で建てられているのですが、その目的や理由はわかりません。年数の割に設備や状態は悪くないらしく、一部の倉庫は工場や会社が買い上げて自社の物置として利用しているそうですが、大半は空き倉庫と化しているようです。まぁ、殆どの倉庫は立地場所があまり良くはありませんし、妥当といえば妥当なのでしょうが」

 何故お前はそんなことを知ってるんだ、という疑問が一同の胸に湧くが、今は手がかりになるのであれば何だって縋りたいところなので、黙っておく。

「倉庫ごとに割り振られた英数字がわかれば、場所の特定も可能でしょうね。そちらは仰っていませんでしたか?」
「悪い、流石にそこまでは……。でも言ってなかったと思う。多分、あいつの中では目星がついてるんだと思うけど」
「成る程成る程。そうですねぇ……」

 ふむふむと頷きながら、ミーティングルームに設置されていタブレット端末を持ち出した五条は、てきぱきと画面を操作してみせ、開いたページが皆に見えるよう集まりの中央に置いた。画面には学園を中心とした市街地の地図が表示されており、その幾つかの場所に赤い旗のマークと、A1、B3といった番号が割り振られていた。恐らくこれが、倉庫がある場所なのだろう。しかし数が多い。ここから目ぼしい場所を絞る必要があるのだが、殆どヒントがない状態でどう進めていくべきか。迷う面々に、五条はまず、と切り出す。

「消去法で行きましょう。道が開拓されているところは出入りのしやすさで事業関係者が買い上げをしています。これは実際に近隣の企業のホームページを確認したら出てきました。そこから、A1及びB1は除外できます」

 五条が該当する旗マークをタップすると、旗の色が赤から青に変わった。

「確定情報ではないですが、隣接しているA2とB2も同様です」
「何でだ?」
「余程の面倒臭がりか裏をかくのが得意な者でない限り、普通は人の出入りがある場所のすぐ隣を使おうとは思いませんよ。こんな辺鄙な場所の存在を知っているということは、他者に見つかるのは好ましくないと思っているはずです。ならば少なくとも、契約済みの倉庫の隣を確保することはしないと考えられます。会社が追加でその倉庫も使う、となる可能性は、ないとは言いきれませんから」
「そうなると、ここの交通量が多い道路の近くにある倉庫も潰せるな」
「この辺も場所にしちゃ人通りが多いから、夜中に明かりが点いてるとバレるだろう」

 その後も各々から出てくる情報を浚いながら吟味し、可能性の低い場所を潰していく。倉庫の存在には呆気取られていたようだが、意外と皆、この辺りのことには詳しいようだった。そうして十分も経たないうちに、赤い旗は三つにまで絞られた。「残りはこの三つか」と鬼道が呟いたところで、徐に源田がとある一点を指差した。

「……そういえば、此処。確かこの辺、前に警察が来たことがなかったか? 一年も前じゃなかったと思う。倉庫を使っていたかどうかまでは知らないが……」

 朧気な記憶から引っ張り出すようにぽつりぽつりと喋る源田に、佐久間が思い出したように顔を上げた。

「ああそれか、俺も知ってる。あの辺アジトにしてた不良だかギャングだかが一晩で壊滅したってやつだろ? 親からそんな風に聞いた覚えがある。おかげで警察沙汰になるわで結構パトカー五月蝿かった時期あったよな」
「じゃあ、そういう奴等が隠れるにはもってこいの場所ってわけだな」
「……まさか、そういう奴等と咲山が関わってるっていうのか?」
「咲山がかぁ? 馬鹿言うんじゃねぇ。それがマジなら、その壊滅騒ぎの犯人が咲山で、まるで今回報復目的で呼び出し食らったみたいじゃねぇか」

 ありえないと言いたげな大野の発言だったが、しかし何故か誰も笑って流すことができなかった。奇妙な沈黙が場を満たす。じっとりとした空気の中、小さく息を吐いた鬼道は、意を決したように開口した。

「……その推測は強ち間違ってはいない。咲山は不良だ。警察沙汰にはなっていないものの、何度も近隣でいざこざを起こしている。恐らく、此処に入部してからも、喧嘩行為は続いてただろう」
「!?」
「本当ですか、それ……」
「嘘だろ……」
「これまでの情報から鑑みて、その報復に呼び出されたというのであれば辻褄自体は合う。相手も咲山を探し出すのに手間取ったのだとすれば、このタイミングでの呼び出しはおかしなことではない」

 誰かが息を飲む音が聞こえた気がした。薄々勘付いていたように視線を外す者、まったくの初耳だといいたげに驚く者、反応は様々だった。ラフプレーの多いサッカー部ではあるが、それはあくまで試合中の話だ。元々気性が荒い者も居なくはないが、誰も彼もがフィールド外でも暴れているわけではない。寧ろ帝国学園という場所柄故、節度や限度を弁えている者の方が多数だ。だから、このチームに本物の、今も活動している不良が居るということが信じられなかった。自分たちが被害を被ったわけではない、誰かに危害を加えるところを見たわけでもない。だというのに、全く恐怖していないとは言い切れなかった。
 じっとりとした空気が流れるそんな中、静かに口を開いた者が居た。

「……それは、何か重要なことなのか」
「源田?」
「咲山が不良だったとして、それはサッカー部に、俺たちに、何か関係のあることなのか?」
「関係あるかって、そんなの……」
「鬼道、お前はそのことを知っていたんだろう。知っていて、敢えて言わなかったんじゃないのか? 咲山が不良だからといって、現状それがサッカー部から排除する理由にはなり得ないと、そう考えたんじゃないのか?」

 困惑した雰囲気の中、やけに確信を持ったように紡がれる源田の言葉に、鬼道はやや思案してから。

「……そうだ。この情報は、帝国サッカー部のデータベースから得た。総帥も既知の事実だ。わかった上で入部させたということは、問題はないと判断したんだろう。俺も知ったときは少し驚いたし、お前たちに周知するべきかどうかも悩んだ。だがチームの乱れに繋がるようなことを避けたかったというのと、今までの活動具合からして、咲山の存在が部に支障を来たすことはないと判断した」

 実際、咲山のポテンシャルには目を見張るものがあった。経験の浅さは此処で学べばいいだけで、彼にはその伸び代がある。今でこそベンチスタートで余裕があれば出場するような形ではあるが、ゆくゆくはスタメン起用も一考していたほどだ。実力や潜在能力は申し分なく、今後確実に部に貢献できる存在になり得るだろう。しかし、彼は不良であった。このことを他の部員たちが知り、部内での雰囲気が悪い意味で変わらないかという点だけが、鬼道の気がかりだった。一般的に、不良にいいイメージを抱いている者は少ない。咲山がどこまでそういう道に入り込んでいるのか、今どれだけ危うい位置に居るのか、そればかりは鬼道にも判らない。だが、咲山が不良であることによって部に問題が起きたことは今までなく、また彼もその一部を見せて牙を剥くことはしなかった。なので、それを本人に追求することや、総帥に確認する必要はないだろうと、そう結論付けての行動だった。

「つまり、咲山が不良であることは特に気にするものではないと、少なくとも、鬼道はそう認識したということでいいんだな?」
「総合的に言えば、そうなるだろうな」
「そうか。なら、それでいい」

 あっけらかんと言ってのける源田に、は、と思わず声が漏れる。見れば、他の部員たちも否定的な表情はしておらず、どちらかといえば納得しているように、静かに微笑んでいた。

「お前の判断を、俺たちは信じるよ」

 そう屈託なく言われて、鬼道はゴーグルの奥の両目を見開いた。

「っていうか、あいつが何かヤバそうなのは薄々感じてたけどな」
「そうなのか?」
「めちゃくちゃとっつき難かっただろ。話しかけても別にって感じだったし。ガチで不良だとは思わなかったけどよ」
「源田はお節介するからよく睨まれてたよな」
「え、そうだったのか……てっきり疲れているのだとばかり……」
「何をどうしたらそんな解釈ができるんだよ……」

 そんな会話を朧気に聞きながら、鬼道はずっと目を瞬かせていた。どうしてこうも、自分を信用しきれるのか。意図的に話していなかったことを、咎めようとは思わないのか。こんなにも純粋な信頼を向けてくれるだけのことを、自分はできているのか。ぐるぐると巡る理解し難い現実と感情に小さく口を開いていると、それに気づいた寺門が肩を竦めながら、一歩、鬼道に近づいた。

「……まぁ、そういうことだ。ここの誰も、あいつが不良だからってそれを理由に疎むような奴は居ないし、黙ってたお前の判断を咎める奴も居ない」
「寺門……」
「わかったらほら、さっさとどうするか指示をくれよ、キャプテン」

 ぽん、と背中を叩かれる。その大きな手からかけられた期待と信頼に、そして源田の言葉や他の部員たちの表情に、キャプテンとして、自分は答える必要があるのだろう。しかしこの件に関して、鬼道たちができることはほぼないといっていい。精々が総帥にこのことを報告するぐらいだ。そうすれば、あとは大人たちが解決してくれる。下手に自分たちが介入して、万が一が起きない保障もない。辺見のような被害者を増やすわけにはいかなかった。

「推測とはいえ、辺見が捕まり咲山が向かったであろう倉庫は幾つか目星がついた。総帥に報告すれば、然るべき対処はあの人や警察が対応してくれるだろう。俺は総帥のところへ行く。お前たちは授業に戻って構わない。時間をとらせたな」
「……なぁ鬼道」

 タブレットの画面を確認し、それを持ってミーティングルームを出て行こうと支度を始める鬼道を、佐久間が引き止めた。どこか不安げな色を左目に灯しながら、佐久間は言う。

「警察が動くとなると、咲山はどうなる? 前科があるのなら、非行扱いで補導か、最悪裁判沙汰にならないか?」
「……場合によっては、というところだな。そればかりは総帥がどう動くかによるだろうが……」
「仮に咲山に補導暦がついたとして、俺たちはよくても、学園側がそういう奴を此処に置いておくことを良しとするだろうか。補導ぐらいならまだ注意と謹慎で済むかもしれないが、裁判なんて事態に発展したら、それこそ目も当てられないぞ」
「そうなる可能性もないとは言い切れないな。だが、そこまでは俺たちが気にしてもどうにもならないだろ。判断の匙加減は大人が決めるもんだ、俺たちが介入できることじゃない」

 咲山の行為に判断を下すのは警察をはじめとする大人たちであって、自分たちではない。未成年という身分で今できるのは、この情報を総帥に伝え、後を頼むことだけ。そもそも、相手の姿形、人数すら不明瞭なのだ。単なる喧嘩好きの不良たちであればまだしも、これが犯罪グループであれば、それこそ警察に任せるしかない。そうなると、どうしたところで咲山の経歴に傷がつくことになる可能性は高いが、この学園に居る以上は総帥が何とかするだろう。仮に警察に補導されたとしても、今回の件だけでいえば厳重注意という形で処理されるだろうし、補導暦は成人すれば破棄される。咲山が手を挙げていたとしても、正当防衛だと言える理由もある。一方的な過失ではないのだから、学園側も最悪の決断を下すことはないはずだ。だが、現時点では何を考えたところで全て憶測や仮説にしかならないのだから、どちらにせよ、残されたメンバーにできることは、二人の無事を祈って、此処で待つほかにない。

「……ふむ、なら、俺たちが咲山と辺見を助け出すというのはどうだろうか」

 唐突に室内に響いた、突拍子もない源田の発言に、全員の視線が一気に彼へと向いた。何を言っているんだお前は、という困惑と呆れ。賛同するような雰囲気は見受けられない。それらを一身に受けた源田は、しかしそんな圧を微塵も感じていないかのように、至って真剣な表情で作戦の概要を語った。要約すると、救助組と待機組に分かれ、救助組が倉庫に忍び込み、二人を助け出し終えた頃合いを見計らって、待機組が警察に連絡をするというものだ。救助組が撤退したあとに警察が駆けつけるようタイミングを調整すれば、咲山は補導されずに済むし、犯人を捕まえることもでき、今後このような事態が起きることもなくなるだろうと、そういう作戦だった。
 一通りの流れを聞いた鬼道は、軽く脳内でシミュレーションを行ってみた。確かに悪くはない。しかし、ゴーサインは出せなかった。

「……駄目だ、作戦は悪くないがリスクが高過ぎる。相手も一人ということはあるまい。お前たちの中から数人が救助に向かったとして、全く見つからずに二人を連れ出せる可能性は低いだろう。見つかればそれこそ無事では済まないぞ。最悪、此方の誰かが相手に捕まったり、警察の介入タイミングがずれてお前たちまで巻き込まれるかもしれない。大体、咲山を呼び出した奴を捕まえるだけなら、総帥や警察へ報告して、プロに動いてもらう方が確実だ」
「だがそれでは咲山が巻き込まれてしまう。俺たちにとっての最善は、咲山と辺見の救出と、犯人たちの逮捕のふたつだ。今とこの先を考えたら、どちらかだけが達成される形ではいけない」
「しかしだな……」
「無茶苦茶を言っている自覚はある。だが咲山も辺見も、サッカー部の大事な戦力であるのと同時に、俺たちの仲間だ。仲間を助けたいと思うのは、当たり前のことじゃないのか」
「…………」
「俺の立案内容は悪くはないんだよな? だったら、これを叩き台にして、最良最善のルートを作り上げてほしい。俺たちだけでは心許ないが、うちにはお前が居る。我等が天才ゲームメイカー、戦略を立てるのは得意だろう?」
「……まったく」

 あまりに自分を買い過ぎだ。しかし、その笑みと全幅の信頼を向けられてしまえば、それに応えなければと思ってしまう。浮かべた笑みは呆れか可笑しさか。額を押さえて口端を持ち上げた鬼道は、踵を返して輪へと戻った。



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