10番! | ナノ


「鬼道は兎も角、円堂が帝国のユニフォームというのは慣れないものだな」
「そりゃあ、普段キーパーのユニフォームだしなぁ」
「そういうことじゃないんだが……」

 見慣れない深い緑と赤の差し色の入った半袖ユニフォームを着てくるりと回った円堂に、豪炎寺はそう呟いた。確かに、誰も彼もが新鮮だとは呟きもするが、似合うとは言わなかった。恐らく、根本的なところで“雷門カラー=円堂”という認識があるのかもしれない。かくいう豪炎寺もその口であるし、帝国メンバーとの作戦会議を終えてこちらに近寄って来た鬼道も、また同じ意見のようだった。

「言われてみれば、円堂といえば雷門というのは、塗り替えることが難しいレベルで強く刻みついているな」
「鬼道は帝国も雷門も似合うよなぁ」
「マントの色で釣り合いとってるからそう見えるんじゃないか?」
「あっそうかも!」
「おい。……だがまぁ、俺は何でも着こなせるからな」
「後で音無に純情ウェアでも取り寄せておいてもらうか」
「待て」

 冗談なのか判りかねる素面で言うものだから、流石の鬼道も焦って制止をかけた。着るにしても本人含む全員が巻き添えになるということを、このエースストライカーは理解しているのだろうか。

「うーん、でも似合う似合わないでいったら、豪炎寺は何でも似合いそうだよなぁ」
「俺か?」
「そうえいば、去年の木戸川清修のユニフォームは、こいつが炎を使うということもあって映えていたな」
「雷門のユニフォームもちょー似合ってるし!」
「帝国のように落ち着いたシックな色合いもよさそうだ」

 二人の脳内で勝手にファッションショーが始められているようで、豪炎寺はすっかり呆れてしまった。
 しかし、自分にはこれといった固定イメージというか、所属のイメージが薄いのかもしれないということを、考えなかったことがないわけではない。木戸川に所属していた期間は一年と短いし、雷門には中途参加と離脱を繰り返していた始末だ。どこかのユニフォームを長く着続けて、そこのチームといえば自分、という認識を、周囲に持たれているような印象は見えなかった(豪炎寺としては、もうすっかり雷門の一員に染まったつもりでいるのだけど)。そう考えると、既に定位置というか、決まったカラーや特徴があって、それを他人に印象づけることができている二人のことが、少しだけ羨ましくなった。

「あ、でも豪炎寺といったらあれだよな!」
「あれ?」
「襟! こう、ピーンって!」
「確かに、襟立ては豪炎寺のトレードマークという気がするな」
「そんなにか?」
「そんなに!!」

 自分では言うほど意識していないのだが、そういうものに限って他人には深く印象づいているらしい。これではこの先、ユニフォームカラーでなく襟の有無で存在を認識されてしまう可能性が無きにしも非ずだ。かといって今更色を背負うというのもおかしな話である。襟回りを立ててみせて笑い合う円堂と鬼道に、豪炎寺はなんとも言えない溜め息を吐いた。

「そろそろ試合が始まるぞ。お前たちもポジションに戻れ」
「そうだな」
「じゃーな豪炎寺! 負けないからな!」
「ああ……って円堂! お前今キーパーじゃないだろう!」
「あっ!」

 癖なのか、指定されたポジションよりも奥の、既に源田が着いているゴール前へと駆け込んでいこうとする円堂に苦笑しながら、豪炎寺も自軍のFWの位置へと向かっていった。悪い悪いと頭を掻きながら戻ってきた円堂は、ふと豪炎寺の後ろ姿を見て、ああ、と声をあげた。そんな円堂に気付いた鬼道が声をかけると、円堂はいつもの晴れやかな笑みで言う。

「どうした円堂」
「ああ、いやさ、大したことじゃないんだけどさ」
「さっきの話か?」
「うん。俺、フィールドで豪炎寺見てるとさ、いつも思うんだよ」
「?」
「豪炎寺っていったら、やっぱあの背中もだよなぁって」
「……フッ、確かにな」




×