10番! | ナノ


「まさか、お前と隣同士の席に座る人生が来るなんて思わなかったな」
「僕もだよ。運命ってわからないものだね」

 新たな協力者を乗せたイナズマキャラバンの中、隣同士となった豪炎寺とアフロディは、互いに小さく笑いながら、そんな会話をしていた。当初はアフロディに嫌悪感を抱いていた雷門イレブンも、彼の尽力と嘘偽りない実力を見せられた今は、少し溜飲が下がっているようだった。綺麗に唇を歪めたアフロディは、次に眉を下げ、静かに言葉を紡いだ。

「……FFでは本当にすまなかった。謝ったところで、何が変わるわけでもないけれど。それでも言わせてほしい」
「過ぎたことだ……と言っても、お前は納得しないだろうな」
「そうだね。だからこそ言おう。この胸に誓って、もう僕は、自分の道を違えたりはしない」

 そう力強く宣言するアフロディの双眸に、翳りはなかった。FFのときにあった傲慢さから解放されたように清々しい二対の赤に、そして先程の試合で見せた驕りを捨てた一撃に、豪炎寺はアフロディを受け入れることを決めた。きっと、彼はもう大丈夫だろうと、なんとなく感じ取ったのだ。

「お前はもう大丈夫だろう」
「根拠は?」
「医者の息子の感だ」
「あはは、感かぁ。それはいいね。ちなみに親御さんは何担当なんだい?」
「外科医だが」
「メンタル面全然関係ないじゃないか……っ!」

 冗談なのか通常運転なのか判りにくい豪炎寺の発言に、アフロディは目を細めてけらけらと笑う。そこに嘗てのような蟠りはなく、どちらかといえば死闘を繰り広げあったライバルと言うのが適切な雰囲気だった。まだ僅かばかり怪訝な空気を纏う者も居たが、豪炎寺や円堂が受け入れているのであれば、といった具合で、アフロディがこのチームに馴染むのも時間の問題といったところだろう。

「そういえば、君も大変だったようだね」
「まぁ、な。沢山の人に助けられた」
「それを恥だと思ってはいけないよ。人は誰かと共に在る生き物だからね。その人たちが君のためにとしてくれたことは、臆せず受け取るべきだ」
「……なんだか、本当に神様みたいなことを言うな」
「冗談。僕はもう神なんて辞めたのさ。今は君たちと同じ、地に足をつけて生きている人間だよ」

 たんたん、とシューズで足元を叩いてみせるアフロディ。そんな子供の悪戯めいた行動でさえ、ゆらりと金糸のような髪が揺れることで麗しさが垣間見えて、豪炎寺はまばゆさに目をしばたたかせた。

「どうしたんだい?」
「……お前、少しオーラを抑えられないのか? 眩しいんだが」
「は?」

 頭が大丈夫かと言いたげなアフロディに、自分がその立場ならそう反応していただろうなと豪炎寺は思った。しかし眩しいものは眩しいのだから仕方がない。一挙一動が艶やかというべきか、兎に角品があるせいで、直視し続けることが適わないのだ。そんな豪炎寺の心情を知ってか知らずか、アフロディはふふ、と小さく微笑んで、唇を歪ませた。

「僕からしたら、君も十分眩しいけどね」
「……それは、俺じゃないだろう」
「そうかな。少なくとも、太陽を受けて燃え上がる炎は、強くて眩しいものだよ。月明かりの下で細く揺らめくのも乙だけどね」

 何が言いたいのかと首を傾げる豪炎寺に、ふふ、とアフロディは微笑む。その仕草と微笑がやっぱり神様めいていて、豪炎寺はアフロディへの評価を「よくわからない不思議な奴」へと塗り替えることにしたのだった。



×