text | ナノ



ぱらぱらと不規則に紙が捲られる様を、ゴンとキルアはそれはそれは面白くなさそうに眉根を寄せて見ていた。
暇潰しにやっていた水見式は早々に飽き、仕方なく食べていたお菓子の山ももう空箱ばかりが散乱している有様。むすくれた自分達に一切視線を向けず、ごろごろ瞳を動かしては紙を捲る動きばかりを繰り返すクラピカはもう見飽きたと言わんばかりに大きく息を吐くキルア。少しは身じろぐかと思いきや、しかし緋色の持ち主(今は茶系色だが)は依然として行動のループを崩そうとはしなかった。


「つまんねーの」

「ちょっと集中し過ぎだよねー」


寝そべって手を伸ばした先にあった空箱をパコパコとロボットのように動かしながら舌打ち混じりに呟くキルアに、苦笑気味にゴンが同意して返す。別にクラピカの邪魔をしたいわけではない。ただ、本にかかりっきりになっている彼が自分達に構ってくれないことが、少しばかり子供心にもやもやと黒い何かを纏わせているだけで。
人はそれをやきもちと呼ぶのかもしれないが、そう肯定すると何だかむず痒く感じるので認めたくなかったりする。お前らまだ子供だろ、とレオリオにどつかれても文句は言えない。


「お前等まーたそれか」


話の例えに出てきたところで、丁度勉強に一区切りつけたらしいレオリオがひょっこりと顔を覗かせてきた。毎度のように呟かれるゴンとキルアのぼやきに呆れを見せると、だって、と反論したげに頬を膨らます二人。この光景を見るのは何度目だろうかと内心苦笑しつつ、冷蔵庫の開封済みのジュースを分け与えれば素直にがっつく辺りそこそこに扱いやすいことに変わりは無い。


「まあ確かに、ちょっと本の虫し過ぎっちゃあし過ぎだけどな。医者志望の身から言わせてもらえば、やっぱ少しは休憩とってもらいてーわ」

「もう三時間は経つよ」

「その間ずぅっと本をとっかえひっかえしてんだよ」


勉学に励むレオリオから見れば可愛らしい時間ではある。だがそれをうっかり口走ると目の前の二人から拳が飛んできそうなので、寸でで押し黙る。
と、何かを思いついたように大声を上げて起き上がるゴン。腕を組んでぶーっとふくれっ面を作っていたキルアは、ゴンが大声を上げた拍子に驚いて頭をぶつけた。


「痛…んだよゴン!いきなり大声出すなっつーの!」


じりじりと後頭部から生じる鈍痛に涙目になりながらゴンを睨みつける。が、当の本人は良い事を思いついたとキラキラ目を輝かせながらそうだそうだとはしゃぐ。いい加減にしろと言わんばかりにキルアが一発鉄拳制裁を加えれば、犬のような声を上げて同じように後頭部を押さえた。痛みをぐっと堪えながら、ゴンが叫ぶ。


「驚かそう!」

「は?」

「だーかーら、クラピカのこと驚かせようって!」


ゴンの言いたいことがいまいち伝わってこない。驚かせようって、どうやって?疑問符を浮かべたままのキルアとレオリオに、ゴンはぐわっと両腕を上げて説明し出す。


「そりゃあ、後ろからこう、わっ!と」

「アホか!気配で気づかれんだろ!」

「何のための絶だと思ってるのキルア」

「日常生活に紛らせて使うもんじゃねえのは理解してるつもりだよ!」


ぶうっと膨れるゴンを一発叩くキルア。そりゃあ、声をかけても生返事、横によじ登ってみても無視、揚句わめいてみてもじとりと生温いオーラ(殺気ともいう)を送られるのだから、驚かす他にどうしようもないのは承知済みだ。だからといって念まで使うのは如何かと思う自分が居るのも確か。さっきまで不貞腐れていたのは誰だと言ってはいけない。


「…ま、少しは荒療治してもいいんじゃねーか?俺からもいっちょ頼むぜ」

「レオリオも一緒にやろうよ!」

「おま、俺がやったら確実に裏拳で潰されるわ!」


こいつ等無邪気でいいな、と内心冷えた目で見つつも、やると決まったら乗り気になる自分は抑えられない。
ふっと意識を集中させ絶状態になる。二人の気配を感じられなくなったレオリオは見当違いの方向を見ながら凄ぇ、とぼやいた。


「じゃ、何処に居るかわかんねえけど行ってこい!」

「うん!」


元気よく返事をしたゴンとその背中についていくキルアを見送ったレオリオは、頭を掻きながらキッチンへと向かった。茶菓子と紅茶でも準備するつもりなのだろう。

一方ゴンとキルアはそっとクラピカの背後に回っていた。相変わらず紙を捲る音と時折足を組みかえる音の他は聞こえない。くすくすと声を殺して笑うゴンは、風でゆらゆらと揺れるクラピカの金髪に視線を動かす。キルアはといえば、さっきまでの渋りは何処へやら、悪戯っ子の笑みを浮かべてスタンバイをしている。


「じゃあ、行くよ」

「おう、せーのでドーンだぜ?」

「うん……せーのっ!!」

「おりゃっ!!」






構って、あなた!
こんにちは、あなた!
(おうっ!?)
(やったー成功ー!)
(やっと本から視線ずらしたな、虫さん)
(おーい、折角茶淹れたんだ、じゃれてんのも結構だけど早く連れてこいよー)




***
さの子様リクエストの「メイン四人でほのぼの、クラピカ愛され」になります。
物凄く遅れた上にクラピカさんの出番が少なくて申し訳ないです…

構ってもらえなくてダラダラ拗ねちゃう二人が書けて楽しかったです。子供可愛いです。
クラピカの視力が心配なレオリオがいいお父さんになりそうで辛いです。早くお医者さんになーれ!


リクエストありがとうございました!



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