text | ナノ




風の気持ちよさを全身に受けながら、いつもの公園で日光浴よろしくうたた寝をしていた時。不意に日射しが遮られた事に不快感を感じ、ゆっくりと視界を開いた先に制服姿の彼女が居た。


「あ、ごめん」


如何やら買い物帰りらしく鞄以外にビニール袋を持ったミサキは、休息を遮った事に対して謝罪を述べた。櫂としては其処まで気に障った事でも無く、精々自分一人の時間に同じ寡黙そうな彼女が割って来た程度にしか感じていなかった為、その謝罪に対して特に言及する事は無かった。
寧ろわざわざ話しかけてきてくれた事に嬉しさを感じているぐらいだが、如何せん自分のイメージ像からして無愛想を貫く他無い。


「また此処なの?」

「…何かいけないのか」

「いや、そういうわけじゃないんだけどさ…」


仮にもこの公園が子供の溜まり場になっている事は承知済みだ。子供達のファイトの様子を、彼等の拙い語録と表現から脳内にイメージして時間を潰すのもなかなか乙なものである。やはり子供である分プレイングが甘くなりがちな部分が目立つが、理論的に進める上級者とはまた違った勢いの良さに学ぶ事もある。少し前までの自分ならば弱者からは得るものなど無いと切り捨てていただろう。この変化には正直戸惑っている。

いつの間にか荷物分の距離を開けてミサキが隣に座る。嫌ではない、だがむず痒い距離間。


「帰りか」

「まぁ、うん。試験前だから半日。そっちも?」

「似たようなものだ」

「なら此処でゴロゴロしてていいの?」

「問題無い」


課題は既に終わっており、残りの科目も然程問題のあるものではない。自称友人のあの金髪男は如何だかわからないが(確か課題がと焦っていた気がする。頭は悪いわけではないのだが、彼は)。
本来ならばもっと学業に親身になれればいいのに、如何してもその興味と関心はヴァンガードに向いてしまう。素直に学業にも専念できるアイチや井崎(森川は論外)辺りが羨ましい。隣の彼女は持ち前の記憶力であしらう程度に高得点を取って来るのだろう。


「…お前は、特に苦労をしそうに無いな」

「そうでもないよ。こんな格好の奴が満点取ったらそれはそれで怪しいし…好きでそういう風なわけじゃ、ないから」

「……軽率だったな、すまない」

「もう前の事じゃない、いいよ」


そう言ったミサキの顔は、一つの岐路を乗り越えたように淡く微笑みを浮かべていて。蒸し返してしまった事への軽率さはありつつも、その表情を見れた事にらしくもなく少なからず満足した。

離れたところでは、石畳の上にプレイマットを敷いて子供達が思い思いにカードを並べてファイトをしている和気藹々とした様子が窺える。友人達のアドバイスや野次を牽制しつつ手札とにらめっこする様は、見ていて微笑ましい気持ちになる。
自分もああだったのだと考える度に歯痒い気持ちを思い出し、今の素っ気無いファイトを重ねる度にあの頃の逸る気持ちを思い出す。それでも最近は随分と周囲に感化され、以前のように人を突っぱねる事は少なくなったと思う。年下組との交流も問題ない。あるとすれば、会話がぎこちなくなる人物が若干一名居るぐらいで。

それ以上話題が上がる事も無いまま、無言が続く。櫂は櫂で気を利かせるわけでも無く、ミサキもミサキで立ち去る様子も無い。子供達のがやに紛れて響く生活音が辛うじて間を保っていると言ってもいい。
傍から見れば人一人分空いた距離感すら初々しいのだろうが、生憎とそういったロマンスに疎く敬遠しがちな二人にとって、あくまで相手に踏み込まない為の防衛線でしかないその間。先に動いたのは櫂だった。無言のまま立ち上がり、徐に手から離れ置き去りのミサキの手荷物をさらっていく。


「ちょ、」

「行くんだろう」

「そうなんだけどさ…」

「俺も行く。この前から葛木がファイトをしろと五月蠅いから、諌めに行くついでだ」


こじつけ臭いのはいつもの事だと割り切って、微妙に崩れた表情を見られまいと強引に話をつける。自分の制止も疑問も聞かず見知ったショップへと進んでいく後姿を見ながら、彼のいつもの冷静じゃない、素直になれない年頃の男の子の一面を見たような気がして一人くすりと微笑むミサキ。

軽くなった右手に小さな幸せを感じた気がして、少しだけ上機嫌に彼の背中を追いかけた。





手と手が触れ合う事だけが、恋じゃないんです



その後のカードキャピタルにて、何処か微笑ましく入店してきた二人を見て一部の人間が驚愕の余りデッキケースや手札を落とす事になるのは、また別のお話。



***
小梅さまリクエストの「櫂ミサほのぼの」になります。お待たせして申し訳ないです。

櫂くんの自宅(※違います)にはミサキさん行った事ないよなぁ、と思い場面は公園にしてみました。付き合ってはないけれど微妙な距離間でぬるーくぐだぐだしてる二人をイメージして頂ければ…!
糖分皆無でごめんなさい!少しでも二人にほのぼのしてもらえれば幸いです^^

リクエストありがとうございました!



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